あの記念すべき1994年3月の夜から、ギャラガー兄弟が客に紛れ込んだ夜まで、350人を収容する100 Clubと先頃再結成したオアシスとのつながりは深く、良くも悪くも醜くも、さまざまな夜のストーリーを紡いできました。 オックスフォードストリートの地下にある100 Clubで30年以上前に行われたオアシスの25分間のライブについて、その場にいた人たち間では不思議なほどに賛否が分かれています。「Supersonic」で汗にまみれた夜が、メンバーたちだけでなく観客の人生も変えるほど衝撃的だったと言う人もいれば、ただ騒々しいだけだったと振り返る人もいます。

それから数十年を経て、100 Clubよりも桁違いに大規模なステージで待望の復活を遂げ、今もやはり90年代初頭と同様に賛否両論のオアシスですが、それは一度解散したこの兄弟バンドに不可欠な要素とも言えます。兄弟間の一触即発の対立、繰り返されるからかい合い、何をするか分からないリアムの鼻にかかった歌声、ノエルの辛辣さがなくなったら、一体何が残るというのでしょうか。ありきたりなブリットポップバンドが一つ増えるだけなら、そんなことは誰も望んでいません。
オアシスはいつだって、そういう次元の存在ではありませんでした。90年代の結成以来、3世代にわたる抑圧されたイギリスの若者たちのサウンドトラックとなってきたバンドです。仲良し家族を演じていなくても、最高とは言い難いソロアルバムを次々とリリースしても、悪い思い出になることはありませんでした 。私たちはそれらを柔軟に受け入れ、再びオアシスの曲に耳を傾けてきました。


初期に100 Clubで行ったライブのセットリストを振り返ってみれば、2025年夏のワールドツアーでアリーナに響き渡るであろう、言葉にならないほど魅了されるあのサウンドを聴くことができます。黙れと観客に言い放つリアムも、「Cigarettes & Alcohol」のイントロでくせになる(恐らく即興の)フレーズをかき鳴らすノエルも、モッズコートを着たリアムに少しでも近づくためなら押しつぶされることもいとわない観客の抑えが効かない熱狂ぶりも、昔から変わりありません。一つだけ、今では聴くことができないものは、「Live Forever」でのリアムのファルセットの繊細なトリルでしょう。ずいぶん前に失われたそのファルセットは、その場にいた人だけが聴けたものだったはずです。

ここに掲載されている文章は、地元で人気を誇るライブハウスと、そのステージやダンスフロアを彩ってきた数多くのレジェンドたちにまつわる、エピソードや資料が満載の貴重な書籍『100 Club Stories』からの抜粋です。セックス・ピストルズのいざこざ、メタリカやザ・ローリング・ストーンズのシークレットライブなど、ロンドンにひっそりたたずむサブカルチャーの聖地で過ごした忘れられない夜の思い出が詰まった一冊です。
1994年3月24日 にロンドンの100 Clubで行われたオアシスのライブのセットリスト
Bring It On Down
Digsy’s Dinner
Live Forever
I Will Believe
Cigarettes & Alcohol
Supersonic