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サブカルチャー

Tennis Whites(テニス・ホワイト)

2022年5月
Words by Ben Perdue

テニス・ホワイトの爽やかでクリーンなスタイリングと、フレッドペリーとの切っても切れない絆。

「白は色ではない」と主張する人がいますが、その通りです。というのは、白は色彩以上の存在だからです。白は私たちが身につけることができる感情やムードといえるかもしれません。フレッドペリーのテニスにまつわる物語を紡ぐ背景色であり、純粋な楽観主義の色。白が持つ変幻自在のパワーは、魔法のようです。アンダーグラウンドの映像作家である故Derek Jarmanは、色に関する著書『Chroma』の中で、「カラーホイールを速く回転させると白になる。しかし、さまざまな色を混ぜ合わせた場合、どんな色を足そうとも、汚い灰色にしかならない」と述べています。白はどこにでもある色でありながら、希少価値があり崇拝の対象となるのです。

「フレッドペリーのロンドンのハーリンガムクラブの芝生の上でプレーしたことが何度かありますが、特別な感じがしました」。こう語るのは、テニスを心から愛するアマチュアプレーヤーであり、編集者であるStuart Brumfitt。彼は『i-D』や『Dazed & Confused』のライターを経て、英国のスタイルとカルチャーのバイブル『The Face』を再創刊した人物です。「誰もが全身白のウェアで敷地内を歩いているのは、とても清潔で上品な感じがしますね。赤土のクレーコートでない限り、テニスコートでは必ず白のウェアを着るようにしています」

白は、テニスコートやダンスフロアなど、身体を動かす熱気の中で存在感を高めてきました。太陽の下で着用すると涼しく、汗ジミが他の色に比べて目立ちにくい理由から、白は夏のスポーツウェアの定番色となりました。「白いシャツ以外の服でテニスを楽しむ人の気が知れませんね」とBrumfitt は言います。伝統的なスマートさがあり、健全なスポーツマンシップを連想させます。しかし今年の白は、テニスクラブとは別の「クラブ」のドレスコードに根ざしたポジティブなパワーによって、その重要性を発揮しています。

健康的でありながら快楽主義的でもあるイギリスのサブカルチャーのひとつ、サザンソウルシーン。ここでは白が持つ楽観的なエネルギーが存分に支持され、また体現されていました。サザンソウルは、ノーザンソウルよりも多くのカルチャーがミックスされ、ファッションや音楽がよりコンテンポラリーなスタイルだったという特徴があります。また、70年代後半に栄えたこのサブカルチャーは、夜だけでなくオールデイヤーと呼ばれる昼間のイベントを開催したことでも知られています。DJやダンサーなど影響力のあるクルーが率いる、新しいサウンドと自己表現に特化した大規模なオールデイヤーが企画されました。スーツやモヘアのセーターなど、どのような服装でもオールホワイトのコーディネートがGoldmineやLacy Ladyといった会場の大胆でエレクトリックな雰囲気とマッチしていました。

そのサウンドは、レアな未発表曲の流れによって80年代へと進化し、同様の開放的な楽観主義の精神がディスコ、ジャズファンク、アシッドジャズ、そして最終的にはアシッドハウスへと受け継がれることになりました。その後、電子音楽の浸透に伴い誕生したレイヴカルチャーの基礎を築いたのは、サザンソウルの数千人規模の野外オールデイヤーです。ユースカルチャーの最大のムーブメントを生み出すきっかけを作ったのは、まぎれもなくサザンソウルなのです。

そして、主張のあるファッションや意外性のあるファッションへの注目は続き、1980年にネブワースで開催された《National Soul Day》から1990年のスパイクアイランドの伝説的なライブまで、フレッシュな白が観衆に与えるインパクトは至るところで見られました。

ウィンブルドンにあるオールイングランド・ローン・テニス・クラブの芝生よりもテニスに深く根ざした白とフレッドペリーは、強い絆で結ばれています。しかし今日、その関係はコート以外の場所においても繰り広げられています。フレッドペリーは、テニスコートとストリートをクロスオーバーさせ、ポロシャツ、テニスショーツ、スポーティなニット、トラックスーツ、さらには夏の装いには欠かせない、リゾートシャツ、バケットハットを展開しています。そして自分で決めたルールに従う新しい世代のために、白いテニスウェアの伝統をダンスフロアという場所でアップデートさせているのです。