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SUBCULTURE LIVE

Nicholas Daley Presents

2022年3月
Words by Jason Jules
Photos by Joseph Hayes

フレッドペリーとのコラボレーションを展開しているメンズウェアデザイナーのニコラス・デイリーがキュレーションを手掛け、ロンドンの100 Clubで開催された、音楽とスポークンワードのライブに行ってきました。

ニコラス・デイリーと言えば、イギリスで指折りのファッションデザイナーとして知られているもしれませんが、実はイギリスの音楽シーンを支える代表的な人物の一人でもあります。ニコラス・デイリーは、100 Clubでおなじみのドン・レッツとのコラボレーションによる初のプロジェクト以来、音楽的なテーマと優れたミュージシャンを自身の作品に取り入れ、豊かなカルチャー基盤をあらゆる取り組みに反映させてきました。そんな彼が、やはりカルチャーを大切にするフレッドペリーと現在もコラボレーションを展開しているのは、ごく自然なことと言えるでしょう。

この夜のラインナップには、フレッドペリー × ニコラス・デイリー音楽助成金を獲得したエイデンとナディーム・ディン=ガビシのほか、伝説的なスポークンワード詩人であり作家でもあるロジャー・ロビンソンや、パワーハウスロックの新星サム・アクプロという、何が起きるか分からないという期待が高まる2人も名を連ねていました。

Nicholas Daley

イベント主催者として自らすべてを取り仕切るニコラスは、入り口でゲストに挨拶をしたり、バンドの紹介をしたり、ミュージシャンなど出演者のケアをしたりと、至る所でさまざまな仕事をこなしていました。もしもDJのパフォーマンスがあまり良くなければ、きっとそれさえも担当していたことでしょう。 次の出演者のためにステージを整える間、交代でDJを務めたのはザキア・スーウェルとナビハ・イクバルで、これから始まるライブの幅広いサウンドへの耳慣らしとでも言わんばかりに、ザ・スリッツ、ザ・クラッシュ、アンチポップ・コンソーティアムなど、予想もできない多種多様なアーティストの曲を織り交ぜてプレイしていました。

Spoken word poet Roger Robinson
Fred Perry x Nicholas Daley music grant winner, aden

最初にステージに上がったのは、2020年に創設されたフレッドペリー × ニコラス・デイリー音楽助成金の初回の受賞者であるエイデンです。

過去に多くのシンガーソングライターもそうだったように、エレクトリックピアノの前に座る様子からは控えめな印象を受けますが、鍵盤が優美な旋律を奏で始めると最初の曲から引き込まれ、実に新鮮で独創的なアプローチが伝わってきます。 アメリカのフォークソングにソウルフルで複雑なジャズコードを組み合わせた多層的なメロディは、明確なサビはない代わりに、最盛期のジョニ・ミッチェルを彷彿とさせる、パワフルでありながら繊細な歌声に完璧にマッチしています。クラシック音楽から、伝統的な合唱や、社会政治的なソウル、穏やかなフォークソングまで、さまざまなジャンルを取り入れ、それぞれで成せることを窮めようとしているかのようです。短い出番ながら、受賞特典としてメトロポリス・スタジオでレコーディングした「Caution」などを披露し、観客を大いに魅了していました。

次に登場したのは、ニコラス・デイリーが「OG(Original Gangsta)」と称するロジャー・ロビンソンです。これまで20年ほど作品を生み出し続け、イギリス随一のスポークンワードアーティストとして高く評価されているロジャーですが、観客を興奮の渦に巻き込んだエイデンに続いてステージに上がるのはなかなか大変なことのように思われました。しかし、観客の関心を競うのではなく、観客が落ち着くのをゆったりと待ち、自身の沈黙が周囲のざわめきに勝っていることを証明していました。しばらくして会場が静まると、ロジャーはトリニダード訛りが印象的な、穏やかさと説得力のある声で会場全体の目を引き付けながら、いくつかの詩を読み上げました。簡潔な散文と、間に挟まれる短い挿入句で、観客をどんどん物語に引き込んでいきます。やがて「Grace」という詩を紹介する段になると、ロジャーは声が震えて涙を抑えられなくなりました。この詩に詠まれたジャマイカ人女性は、未熟児として生まれた息子の世話をしてくれた看護師長で、彼女の断固たる決意と献身がなければ息子は生き延びられなかったであろうことをロジャーが説明し、会場は感動に包まれました。ロジャーの出番が終了した後もずっと、多くの人が彼の元を訪れて握手を求め、感謝の言葉をかけていました。

Fred Perry x Nicholas Daley music grant winner, Nadeem Din Gabisi

この夜のラインナップが単なる当たりではなく、実はよく考えられたものであることを確信したのは、ナディーム・ディン=ガビシが登場した時でした。ナディームは、シエラレオネ出身というだけあって、あらゆるジャンルの音楽をとても自由に探求しているように見えます。アフロビートの次世代アーティストとしての才能が感じられる存在で、その音楽はまるで、イギー・ポップがロンドンの高層ビルでフェラ・クティに出会い、一緒にグライムの曲を作ることになったらでき上がりそうな類のものです。カルチャーと音楽と国籍がエネルギッシュに混ざり合い、人々を困難から救い出してくれるような音楽でもあります。音楽助成金の昨年の受賞者であることも納得するほかありません。途中で、観客に「Wata Mami」(日々の恵みに感謝するセネガルの慣用語)と唱えさせ、会場がシュールでおかしな(それでいて素晴らしい)空気に包まれる場面もありました。

Headliner Sam Akpro
Zakia Sewell

最後に登場したのは、サム・アクプロ率いるバンドです。ここで音楽の方向性が一変。ザ・ピクシーズやアーケイド・ファイアのようなアメリカとカナダを代表するインディーズバンドと、ザ・キュアーやレディオヘッドのようなイギリスのバンドを彷彿とさせる重厚なギターサウンドに、サウスロンドンのブラックミュージックのエッジを効かせてスタイリッシュにまとめ上げた、最高にクールなパフォーマンスでした。スタジアムクラスの大物感を漂わせるサウンドと、それに引けを取らないステージ演出は、新生ロックバンドの登竜門として世界的に知られる100 Clubの一夜の締めくくりにふさわしいものに感じられました。

出演者たちは、観客の中のさまざまな熱狂を見事に引き出していました。ライブがすべて終わってから、起こっていたことを的確に言い表すのが難しいほどの素晴らしさです。スポークンワードや詩から、真のロック、アフロビート、フォークソング、合間に挟まれる実験的かつ秀逸なサウンドに至るまで、すべてがしっくりとはまり、あらゆる面で前評判を上回っていました。

振り返ってみると、ニコラス・デイリーの狙いは最初から、一見まったく異なる、枠にはまらない音楽的な創造性に富むアーティストたちに、カルチャーの新たな視点をもたらし、共存と発展を促すことだったのかもしれません。

Nabihah Iqbal