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THE FRED PERRY SHIRT

一番上までボタンを留めるべきか否か?



Words by Paul Gorman

ポストパンク時代からユースカルチャーを悩ませてきた「ボタンを留めるか、留めないか」という問いに深く切り込む。なぜ、ほんの些細なことが大きな違いを生むのか、その理由を探ります。

「シャツの一番上のボタンを留めるというシンプルな行為、そしてそれが生み出す素朴な表情には、さまざまな複雑な意図が隠されている。それはきちんとした印象を与える一方で、ネクタイを意図的に排除するという意味では反抗的な印象をもたらす」

Gert Jonkers & Jop van Bennekom 『Fantastic Man』 編集者

一番上までボタンを留めるべきか否か?

Orange Juice、Jesus & Mary Chain、The CureのRobert Smith、Paul Weller、Talking HeadsのDavid Byrne、NYのJean-Michel Basquiat、映画監督のDavid Lynch……数多くのミュージシャンやアーティストが1960年代初頭のモッズのようなすっきりとしたスタイルを取り入れつつも、ネクタイなしというロックな着こなしをしていたポストパンク時代以来、この問いはユースカルチャーにとって悩ましい問題です。

最近では、Ryan Gosling、Timothee Chalamet、Zayn Malikなどのハリウッド俳優がボタンを留めています。英国版『GQ』誌の自称“スタイル・シュリンク”ことTeo van den Broekeは、「気ままでエレガント、そして堅苦しくないスマートなスタイル」と語っています。

イギリスでもっとも売れているポップデュオ、Pet ShopBoysのNeil Tennantはその先駆者。なぜシャツのボタンを留めるのかという質問に対し、こう答えています。「機能的だから。一番上のボタンがあるからそれを留めているだけのこと。あと、ボタンを開けて着るのはカジュアルすぎるので、好きではない」

そして、ごくシンプルな方法でフォーマル感を演出できるという点が、永遠の魅力となっているのです。

M3600フレッドペリーシャツに関して言えば、「今こそボタンを留める」が答えです。ブランド創立70周年を前に、特徴的なテーラリングを施したシャツが復活します。今までM3600のフロントは「グロウンオン(シャツの前端が内側に折り返っている裏前立て)」でしたが、2022年からは独立した「セットイン(表前立て)」に変わります。その結果、一番上のボタンを留めることで、身だしなみを意識した着こなしができるようになります。

これは小さな変更のように見えますが、実は大きな意味が含まれています。というのは、1952年に創業者フレッド・ペリーがデザインパートナーのTibby Wegnerとともにウィンブルドンで発表した斬新なディテールへのデザイン回帰だからです。

当初「テニスシャツ」と呼ばれていたこのシャツは、その後10年間で男性用レジャーウェアのブームが拡大するにつれ、人気が広がっていきました。ボクサーのBilly Walkerや当時ボディビルダーとして名を馳せていた故Sean Conneryなどのスポーツ界のスターをモデルに起用した英国初の男性向けブティック「Vince Man's Shop」がソーホーに設立されると、その勢いはさらに増していきました。

1960年代初頭には、ポロシャツは若いモダニストの間でサブカルチャー的な人気を得るように。そのブレイクは70年代後半から80年代初頭にかけてのモッズのリバイバル、90年代のブリットポップの時代にも続きました。

2000年代初頭、フレッドペリーは「セットイン(表前立て)」のメイド・イン・イングランドのM12フレッドペリーシャツを発表しました。今日ではM3600とともにそのシャープなディテールを受け継いでいます。

70年以上にわたってフレッドペリーが築き上げてきた歴史と確固たる基盤がありながら、このシャツは極めてモダン。トップボタンを留めれば、さらに未来的になることは間違いないでしょう。

ファッションジャーナリストのAlexander Furyが述べているように、ボタンが発信しているメッセージは「細部へのこだわりとほんのわずかなディテールの大切さ」。今こそ、ボタンを留めるべき時なのです。