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サブカルチャー

ナイトライフの記録



March 2024
Words by James Anderson
Header shot by Ashley Evans

80年代から90年代のサブカルチャーシーン、音楽、ファッションを、当時のナイトライフを記録した貴重な映像で振り返ります。

今や、メジャーなものからニッチなものまで、さまざまなクラブ、レイブ、ライブでナイトライフを楽しむ様子が日常的にスマートフォンで撮影され、SNSやネットで無料動画として共有される時代です。いかがわしいダンスや、志向性のあるファッション、酔っ払った姿も、翌朝に二日酔いが始まるより早く、あっという間に広まってしまいます。もちろん、クラブ内でスマートフォンでの撮影は厳禁としているベルリンのテクノの殿堂、Berghainは例外です。

そうした映像や写真は、手軽に保存して未来に見直すことができます。そうなると、過ぎ去った日々に思いをはせるのは、いろいろな意味で過去のこととなるでしょう。この普及した記録形態のメリットは、誰もが、どこであろうと通ぶって、若者たちに合わせられることです。一方、デメリットもあります。アンダーグラウンドのナイトライフの最新情報を幅広い人たちが得られるようになったことで、Berghainが懸念しているように、盛り上がりにくくなったかもしれません。要するに、評論家気取りの詮索好きや、音楽、ファッション、ドレスコード、それらに伴う行動のニュアンスをほとんど理解せずに批判するマスメディアがいない場所で生まれていたのが、過去数十年の最高のナイトアウトだったのです。これまでも、サブカルチャーの新たなスタイルが必然的にメインストリームとして確立されていくまでには、たいてい下積み的な期間を要していました。しかし、TikTokで急速にバズった動画が瞬く間に過去に流されていく現代において、そのようなプロセスを経るのは非常に難しくなっています。

アンダーグラウンドのナイトライフの最新情報を幅広い人たちが得られるようになったことで、Berghainが懸念しているように、盛り上がりにくくなったかもしれません。

インターネットが普及した90年代以降、名もないドキュメンタリー映像や、単発のルポルタージュ、昔撮影されたアマチュア映像など、過去40年以上にわたってやみくもに残されてきたイギリスのユースカルチャーの記録が、ネット上に公開されてきました。それらは、やんちゃな過去を振り返りたい大人から、時々映像が乱れる古いVHSの貴重な映像を初めて見る若者まで、何百万もの人々に視聴されています。ゴスやアシッドハウスのシーンの起源、スカやジャングルのムーブメントの台頭など、歴史的瞬間の記録は多岐にわたりますが、そこには2020年代のナイトライフとは決定的に異なる3つの共通点があります。第一に、電子たばこを吸う人はいないものの(まだ存在しない時代なので)、誰もがたばこを吸っていることが挙げられます。今となっては信じられませんが、当時は、クラブ、パブ、ライブ会場の中での喫煙は当たり前のことでした。第二に、誰もがカメラを構える暇もないほど、夢中になってその瞬間を楽しんでいる様子が見て取れます。第三に、盛り上がりの中で腕を突き上げている人たちの手に、スマートフォンはもちろん握られていません。
今回は、イギリス各地のダンスフロア、レイブ、たばこの煙がくすぶる古いディスコ、場末のパブ、ライブ会場などでかつてのナイトライフを記録した映像をよりすぐり、当時の様子をたどります。

コベントリーでの超クールなシーン

チャンネル4は2004年に、イギリスのツートーンムーブメントの起源と、80年代初頭に人気があったレーベル(ツートーン・レコード)を振り返る、48分のドキュメンタリー番組を制作しました。常に物議を醸していた第1次サッチャー政権時代の、若者の失業率の高さ、人種間の緊張、暴動にまで発展した状況を背景に、コベントリーからイギリス全土に急速に広まった、ツートーンの台頭に焦点を当てた内容です。この番組では、ザ・スペシャルズ、ザ・セレクター、マッドネス、ザ・ビート、ザ・ボディスナッチャーズなど、コベントリー、バーミンガム、ロンドンを拠点に活躍したバンドのメンバーが、パンキーレゲエツートーンスカという自分たちが生み出した音楽や、当時掲げていた多文化的メッセージ、ジャマイカのキングストン発祥のルードボーイスタイルにイギリスのモッズスタイルの定番(クロップドパンツ、短く刈り込んだヘア、フレッドペリーのポロシャツ、トリルビーハット、タッセルローファー、細身のタイなど、バンドマンやファンたちが取り入れていた要素)を組み合わせたシャープなファッションについて、誇らしげに振り返っています。 中でも、ザ・スペシャルズの激しいライブにわれを忘れるツートーンファンを記録した多くの映像や、時代を感じさせない力の抜けたスタイリッシュなファッションでストリートをぶらつくイギリスの若いスカファンの古い映像は、注目に値します。

ヨークシャーのオルタナティブ

マーケットタウンであるバトリーのXclusivというクラブで1984年に撮影された2時間を超える映像には、そこでの日常だった「オルタナティブ」の夜が記録されています。逆立てた髪や濃いメイクで、手作りのファッションでおしゃれをしていたり、レザーのスキニーパンツにスタッズをちりばめたベルトを着けていたりして、シードルやビールを飲む常連客たち。店内では、地元DJのポールがかける、シスターズ・オブ・マーシー、ニュー・オーダー、シアター・オブ・ヘイト、エコー&ザ・バニーメン、ザ・クランプス、バウハウスなどの曲が流れ、時折デヴィッド・ボウイの古い曲も聞こえてきます。ダンスフロアでは、当時流行した、ステップを踏み腕を大きく振る「チキンダンス」など、独特の動きで特定のバンドへの忠誠がささげられています。撮影者と、楽しそうな客たち、DJのポール、クラブオーナー(撮影依頼者)との会話がたまに挟まれる以外は、ナレーションもなく、ポストパンク時代の若者たちの様子がただじっくりと映し出されています。

マンチェスターのDeVillesでのひととき

1983年にマンチェスターのクラブDeVillesのダンスフロアでの一夜を記録した39分の貴重な映像にも、初期のゴスとチキンダンスがたっぷり収録されています。ただし、学園都市として長年知られてきたマンチェスターの常連客たちは、ヨークシャーに比べると、もう少し多文化的かつ折衷的でスタイリッシュに見えると言っていいでしょう。地元のレジェンドDJであるDave Boothが流す、ビリー・アイドル、グレイス・ジョーンズ、ザ・キュアー、デッド・オア・アライヴ、ストラングラーズ、キリング・ジョーク、パブリック・イメージ・リミテッドなどの曲を楽しむ、ゴスやモホークパンクのファンと、トレンドセッターの美大生たち。男子にはベスト、カットオフシャツ、スキニージーンズが人気で、女子はマイクロミニかフルレングスのスカートをはき、ラテックスやPVCで仕立てたフェティッシュな服に、ランジェリーをアウターとして着る姿が映し出されています。出かける前には、大量のヘアダイ、ヘアジェル、ヘアスプレーが使われたことでしょう。

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ソーホーのクレイジーな若者たち

困惑してしまう「クレイジーな若者」のスタイルを記録したわずか8分の貴重な映像は、カルト的人気を誇るソーホーのクラブイベントThe Batcaveを取材した、ロンドン・ウィークエンド・テレビジョンによる1983年のルポルタージュです。スペシメンのリードボーカルだったオリー・ウィズダムがジョン・クラインやヒュー・ジョーンズと共に開催していたThe Batcaveは、UKゴスのクラブイベントの草分けとして広く知られており、誕生したばかりのゴスムーブメントに対して皮肉を込めた姿勢を貫いていました。イベント開催時に、The Gargoyle、Subway、Fouberts、Gossipsといったウエストエンドのさまざまなクラブのドアに掲げられた、ひつぎ型の看板。ニューウェーブ、ロカビリー、サイケデリア、70年代グラムロックに、エイリアン・セックス・フィーンドやセックス・ギャング・チルドレンなどの新たに台頭してきたゴスバンドのサウンドが織り交ぜられた、Hamish MacdonaldのDJセットリスト。おしゃれをした若者たちにとって重要なことは、ポーズを取ることではなく、そうしたすべてを楽しむことでした。映像では、常連客が出かける準備をする様子も見られます。ブリーチして立てた髪、分厚く塗り重ねたファンデーション、くっきりと引かれた黒のアイライナー、濃い色のサングラス。ダンスフロアに繰り出し、騒がしいトイレでメイクを直しながら、失業手当で暮らす日々や、美大での毎日、9時から5時まで働く日常を語る若者たち。The Batcaveから始まったDIYのファッションやヘアスタイルは、その後数十年にわたり著名なファッションデザイナーのコレクションにインスピレーションを与え続け、どれほど小規模で局地的なサブカルチャーシーンであっても長年にわたって世界中に大きな影響を与え得ることを証明しました。

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ロンドンとウルヴァーハンプトンでのジャングルの隆盛

80年代後期から90年代初頭にかけてレイブシーンが拡大する中、地元で活動するDJやプロデューサーたちは、ハウスから焦点を移し、ダブ、レゲエ、ソウル、激しいMCが融合した、ジャングルと呼ばれる熱狂的なサウンドやマインドに注目するようになりました。そうして誕生したのが、歯が鳴り手足の力が抜けるほどの重低音を響かせる、サンプリングを駆使した楽曲の数々です。『Jungle Fever』と題された、1994年のBBC2チャンネルによる約30分のドキュメンタリーでは、当時のノースロンドンにおけるジャングルアーティストのネットワークが紹介されています。ウルヴァーハンプトンのQuestのほか、AWOLやRageなどのロンドンのクラブを特集した映像では、熱気あふれるダンスフロアで盛り上がる、多様なカルチャーの群衆が見られます。女子は体にぴったりとフィットするワンピースやベスト、男子はカモフラ柄のアイテム、バギージーンズ、アイロンをかけたばかりのシャツやTシャツといった姿。中にはアルマーニのジャケットを羽織っている客もいます。その他、旧式のATARIのコンピューターとカセットテープでレコーディングを行うDIYの宅録セッションや、専門レコードショップでの買い物など、日常の様子も記録されています。ファビオ、LTJブケム、Shy FX、UK Apache、DJ Rap、MC Lenny、MC Gunsmoke、Kickin Recordsのピーター・ハリスなど、ジャングルシーンをけん引していたアーティストのインタビューでは、アンダーグラウンドのインディペンデントシーンであり続けたいという思いが全体的に強調されています。もっとも、それは難しいことが後に明らかになります。ジャングルの人気は高まり、そのサウンドがイギリス全土に響き渡るようになりました。

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ロンドンの革新的なディスコ

1986年に放送されたロンドン・ウィークエンド・テレビジョンの番組『South of Watford』では、ロンドンのナイトライフに革新をもたらした一人として知られ、カルトファッションデザイナーやクラブプロモーターとして活躍していた、リー・バウリーを特集しています。(ハリウッドでスターダムにのし上がる前の)ヒュー・ローリーが紹介する30分のエピソードには、バウリーの型破りな行動が詰め込まれています。YouTubeでは3つの動画に分割されており、1つ目にはイーストロンドンにある公営アパートの派手な自宅での風変わりな装い、2つ目にはファッションショーに出かけた時の様子、3つ目にはさまざまな面で影響を与えその名をとどろかせたバウリーがウエストエンドのクラブで毎週行っていたパーティTabooでの姿が、それぞれ映し出されています。セクシャリティに対する、何でもありのはちゃめちゃなアプローチ。あえてごてごてと着飾ったクラブの常連客が浮かれ騒ぐ様子。それらは、その後のエッジの効いたLGBTQ+のクラブやレイブに通じるものがあります。DJのJeffrey Hintonが、悪趣味なイタリアンディスコ、ポップス、Hi-NRGをかける中、ダンスフロアの様子と併せて、バウリーがふざけるホームビデオが映し出されます。Tabooは(80年代にアシッドハウスが台頭する前に)当時まだそれほど知られていないドラッグだったエクスタシーが人気になった、ロンドンで最初のクラブイベントとしても知られています。その後、センセーショナルなタブロイド紙に暴露記事が掲載され、派手に浮かれ騒ぐバウリーのパーティは幕を下ろします。

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ウエストミッドランズのハードコアなメンタリスト

2021年にデイライト・ロバリーが自主制作し、2分割してYouTubeにアップロードした、低予算ながら意欲的な1時間超のドキュメンタリーでは、ハードコアハウスとプロトジャングルテクノの大人気クラブにおける過ぎし日のナイトライフが取り上げられています。90年から92年にコベントリーで営業していたEclipseは、3階建てのフロアに1,600人を収容できる、レイバーに人気のクラブでした。Jumping Jack FlashやJay Holderなど、今やミドルエイジ世代となった、かつてのDJ、常連客、スタッフが、カメラに向かってクラブの盛衰を語る中、その背景に熱狂的なレイバーたちが楽しむ姿が映し出されています。Eclipseでは毎週末、イギリス全土から集まった常連客が、ストロボの瞬く中、エクスタシーをキメて何時間も汗だくで踊り続けていました。熱気が漂う店内で、カンゴールのハットをかぶった若者たちが上半身裸なのはよくある光景で、女子も露出が高く涼しい服装でした。イギリスで初めてオールナイト営業の許可を得ていたことや、ドイツからカムデンまで各地で販売されていた海賊版ライブカセットのブームを生み出したことからも、Eclipseは先駆的なクラブでした。チャート1位を連発する前のザ・プロディジーがたった60ポンドで初ライブを開催した会場でもあります。

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ホームカウンティを席巻したハウス

BBCは2006年に、1時間のドキュメンタリー番組『The Summer of Rave 1989』を放送し、エクスタシーの使用が横行していた陽気で荒々しいアシッドハウスシーンを振り返り、20年ぶりの猛暑となった夏にイギリス全土で勢いを増した背景を考察しました。画質の粗い貴重な記録映像に映し出されるのは、エクスタシーをキメてパーティに繰り出す10代の若者たち。荒野をはじめ、かつての飛行機格納庫や、使用されなくなった倉庫などを会場とし、ホームカウンティ内外で開催された違法野外レイブで、昼夜を問わずハウスミュージックに合わせて踊る大勢の姿が収録されています。ゆったりとしたダンガリーシャツ、オーバーサイズのTシャツ、トラックスーツにベースボールキャップやバスケキャップを合わせたレイブのプロモーターや参加者たちは、楽しみを取り締まろうと躍起になる政府や警察を出し抜き、あからさまな薬物乱用や中産階級の憤りに無頓着な姿勢に憤慨するタブロイド紙を挑発していました。 このドキュメンタリーでは、SunriseやEnergyなどのメガレイブのDJやプロモーターのほか、70年代パンク以来イギリスで最も大規模な若者の反体制運動を扇動していた『THE FACE』誌や『NME』誌の元編集者たちへのインタビューを敢行し、80年代の陰鬱なヤッピーたち、圧政的な保守党政権、安っぽいヒット曲の対極にあった、ワクワクするほど快楽主義的なシーンを称えています。

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