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ブラック/シャンパン

Something of The Night

サムシング・オブ・ザ・ナイト
2020年2月
Photography by Gavin Watson, Museum of Youth Culture
Words by James Anderson

ダークで圧倒的、そして最も反逆的な色、ブラックが、サブカルチャーとファッションに与え続けるインパクトについて考察する新シリーズ。

黒という墨のような色調は、昔も今もスタイリッシュな個人やシーンの担い手を魅了しています。口コミのギグやバー、レイヴ、クラブナイトで人々が身にまとい、先端のブティックに置かれ、ミュージックビデオやInstagramから流れ出し、誰もが欲しがるレコードジャケットを飾ります。なんといっても黒は時代を超越し、トレンドに逆らい、いとも簡単にクールになれる色なのです。いうまでもなく、全世界の前衛的ファッション・デザイナーも長年にわたって黒の魅力を引き出してきました。彼らの最新コレクションは、あえて限りのあるブラックというカラーパレットから色合いが滲み出し、最小限の手間で最大限のインパクトをもたらしてきたのです。

スカと、白と黒のツートーン・レコードのロゴ

20世紀の主要な音楽ムーヴメントの特徴は、時代の荒波にもまれた完成度の高いグラフィックでした。1950~60年代のブルーノートのジャズ・アルバムのジャケットは、フランシス・ウルフの写真を用いてリード・マイルズがデザインしたもので、今見てもモダンです。1970年代にジェイミー・リードがセックス・ピストルズのレコードジャケットや関連商品に用いた、切り貼りしたレタリングや派手な色使いも同様です。ここでは、1980年代初期のスカ・シーンを見事に表現し、今でも新鮮に感じられる、シンプルなブラック&ホワイトのレコード・レーベル・ロゴを紹介します。

1980年代初期、コヴェントリーで火がついたスカ・シーンは、ザ・スペシャルズやザ・セレクターのようなローカルバンドが先駆者となり、さらにマッドネス、ザ・ビート、ボディスナッチャーズ、バッド・マナーズ、その他のバンドが続出。元パンクス、ルードボーイやルードガール、スキンヘッズ、モッズリバイバルなど、流行に敏感なマルチカルチャー集団がこのシーンに集まりました。1960年代のジャマイカン・スカのリズムに、レゲエのムードと躍動感あるパンク的なエネルギーをミックスしたもので、イギリスの若者達のモダンな都会生活を描いた率直な歌詞が添えられていました。当時の若いスカ・ファン達は、スタイリッシュで時代を超越したクールなスタイルをしていて、ポークパイハット、スリムなスーツ、ローファー、ドクターマーチンのシューズ、ハリントンジャケット、フレッドペリーのポロシャツ、サスペンダー、白ソックス、ボタンダウンシャツ、細身のタイなどを身に着けていました。

しかし、このムーヴメントの最もアイコニックな側面のひとつは、ザ・スペシャルズのジェリー・ダマーズが設立し、当時の主要なシングルやアルバムをリリースしていたレーベル、ツートーン・レコーズのミニマルながらウィットに富んだブラック&ホワイトのロゴでした。このロゴは、ダマーズとザ・スペシャルズのベーシスト、ホレス・パンター、そしてアート・ディレクターのデヴィッド・ストーリーとその同僚でグラフィック・デザイナー兼イラストレーターのジョン・"テフロン"・シムズによるクリエイティヴなコラボレーションから生まれました。ロゴの中心にはシンプルな男性のイラストがあり、ポケットに手を突っ込み、洒落たブラックスーツに白シャツ、白のポークパイハット、黒いサングラス、白ソックス、黒のローファーに身を包んでいました。この印象的な人物像のコンセプトは、ジェリー・ダマーズ自身の発案によるものです。彼は、一時期ボブ・マーリーのバックバンドに加入していたピーター・トッシュのアーカイヴ写真をヒントにしました。さらにダマーズは、古いモノクロのポップアートからもインスピレーションを受け、黒のチェッカー柄を生み出しました。そしてホレス・パンターが、ツートーン・レコードの「2」の部分に、目立ちやすい黒のHelvetica Inserat のフォントを選択。この男性像は、ジョン・"テフロン"・シムズの巧みなドローイング技術によって命を吹き込まれ、「ウォルト・ジャブスコ 」 と正式に命名されました。このネーミングは、ダマーズが直前に古着屋で買ったヴィンテージの米国製ボウリング・シャツに縫い付けられていた名前から取ったものです。

ツートーン・レコードのロゴが持つインパクトはすぐに実感でき、至る場所で目にするようになりました。ウォルト・ジャブスコの模倣品は、海賊版のTシャツ、バッジ、パッチなど至るところで登場し、若いスカ・ファンたちは、黒インクと白の修正液を用いて教科書や学生カバンにこのキャラクターを落書きするようになりました。「ツートーンのアイデンティティは当時のクリエイティヴな世界に即座に影響を与えました」と2017年の Vinyl Factory のインタビューでデヴィッド・ストーリーは語っています。また、ツートーン・レコードと80年代前半のスカが及ぼした影響は、やがてハイファッションの領域にも浸透していったことも回想しています。「Junior Gaultier(1998年にローンチされたジャン=ポール・ゴルチエのセカンドライン)がチェッカー柄やその他、我々がかつて使っていた要素を主なモチーフにしたコレクションを発表したことを覚えています」。これらはすべて、ヴィジュアル・イメージを伝えるときに、必ずしも鮮やかな色や複雑なグラフィックが必要ではないことを示しています。時にはブラックとホワイトのコントラストを効かせるだけで、最高にスタイリッシュな表現になり得るのです。

チェッカーボードパターンは、フレッドペリーのコレクションにも影響を与え、再解釈され続けており、最近ではエイミー・ワインハウス・ファンデーション・コレクションにも取り入れられ、ハートやトリム部分にチェッカーボードが配されています。