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サブカルチャー

シェルスーツ

2022年8月
Words by Ben Purdue
Photos courtesy of the
Museum of Youth Culture

フレッドペリーは、スポーツからガバのレイヴまで、さまざまなシーンにおけるシェルスーツの実用性を証明しています。

フレッドペリーの強みとなっている伝統とは相いれないかもしれませんが、スポーティではないスポーツウェアはそれ自体がサブカルチャーのレガシーとなっています。そもそも、化繊のトラックスーツやアウターを本来の用途以外の目的で着ることは、ファッションの常識を覆す行為です。それらのアイテムは、社会のさまざまな側面が関わってくると反体制的な印象が強くなりますが、ヴィンテージブームに乗って再来したテクニカルスポーツウェアの流行にインスパイアされたシェルスーツには、革新的なメッセージを訴求すること以上に深い意味が込められています。

Two teenagers from a dance crew having fried chicken before a performance, Birmingham, 1991 by Neil Massey

トラックスーツの中でもシェルスーツは特に、ネガティブなレッテルを貼るスティグマにしばしば利用されてきました。労働者階級であることを暗示する没個性的な大衆ファッションとして見られることもあれば、パーカーとは違って反社会的な人物が着るような服と見られることもありました。もちろん、スポーツウェアはイギリスの若者にとって手頃な価格の実用的なアイテムで、実際には多くの人が着ていた着心地の良いアパレルでした。そのことは、暗い政治的背景を思えば、レジャーウェアの本質に対する皮肉な解釈とも言えます。一方で、フレッドペリーならではのカルチャーの歴史とも重なりますが、音楽や自己表現に関連する新しいクリエイティブなムーブメントが社会の末端から生じる中で、化繊のスポーツウェアの意味合いも変化していきました。

シェルスーツの普及の背景にあったのは、80年代後半から90年代前半にイギリスで広まったヒップホップシーン(ロンドンのBボーイやブリストルの重低音グルーヴなど)でした。また、野外フェスはもちろんのこと、イギリスの気候にも対応できる機能的なアパレルであるという国内の評判に、アメリカのトラックスーツの影響も加わりました。

Four boys in shell suits at Club It, London, 1999 by Gordon Munro

同じ頃、オランダ発祥のガバがヨーロッパで流行して新たな視点がもたらされ、スポーツウェアはハードコアテクノのファッションとして確立されていきました。サイモン・レイノルズは、その貴重な著書『Energy Flash: A Journey Through Rave Music and Dance Culture』の中で、「ガバボーイの定番は、きれいなピンク色の耳が目立つスキンヘッドで、まるでエイリアンのようだ。覚醒剤の常用で痩せこけた青白い上半身にタイダイ柄のシェルスーツのようなトラックスーツを羽織っていて、それが500ポンドもするものだったりする」と記しています。

また、労働者階級をルーツとするマッドチェスターのムーブメントに雨が多いことで知られるマンチェスターの気候があいまって、ナイロン製のシェルジャケットやゴアテックス製のセーリングギアといった防水性の化繊アイテムが重宝され、トラックスーツ風のルーズフィットのバギースタイルが誕生しました。こうした組み合わせに最も近い例が、90年代のテクニカルスポーツウェアを中心とした現在のストリートファッションと言えるでしょう。過去のファッションに最新のイノベーションを取り入れたスタイルが、フリマアプリのDepopからディオールまで、あらゆるシーンに影響を与えています。

Cookie Crew posing for a photo in a stairwell, London, 1980s by Normski

その最前線の動向として、ヴィンテージのスポーツウェアに対する熱い思いを共有している、新たな古着専門店とそれらが擁する影響力の強いコミュニティの台頭が挙げられます。レアな戦略的アイテムを提供しているオンラインショップHolsalesのスタイリストでありコレクターでもあるルイス・ホルスグローヴ氏は、次のように語っています。「テクニカルアパレルはちょっとしたカルト的ブームになっていますね。分かる人には分かるし、知りたいと思えばそれもできます。登山用のものでも、街歩きやパブに行くためのものでも、自分が着るものについてよく調べ、ベストの機能性を求める人にぴったりのアイテムです。」

ホルスグローヴ氏の最新のプロジェクトでは、着る人の動きからインスピレーションを得た機能的なアパレルの制作に重点を置き、マハリシやナイキといったブランドとのコラボレーションで活躍している、デザイナーのトニー・スパックマン氏を取り上げています。同氏のアパレルには、ホルスグローヴ氏が最初に魅了されたディテールへのこだわりが見られ、アーカイブの形状を復刻するフレッドペリーのアプローチにも通じる、オリジナルデザインへの愛着を物語っています。

ホルスグローヴ氏は次のように話しています。「発売された当初は見過ごされていた重要なアイテムが復刻されるとうれしくなります。復刻アイテムを見ていると、ブランドが原点に戻ったような感じがするので。いつも面白いなと思うのは、常に新しくデザインされたアイテムが発売されていると誰もが思い込んでいることです。そこで、私が手掛けるプロジェクトでは、優れたアイテムの中には20年以上も前に制作されたものもあるのだということを伝えられるように取り組んでいます。」

今シーズンに発売された、90年代風のクラシックなシェルデザインにモダンなハーフジップジャケットを取り入れた化繊のツーピースは、まさにその例です。機能的なポリアミド素材を引き立たせるジグザグパターンのアブストラクトプリントを全面に施した、すっきりとしたスタイル。同じ生地を使ったバケットハットも合わせると、かつてのシェルスーツのバギースタイルにいっそう近づき、本格的なアレンジが加わった、よりスタイリッシュな全身ストリートウェアのステートメントルックに仕上がります。

このテクニカルトラックスーツは、競技用ウェアからストリートファッションへのスポーツウェアの進化を表しており、抑えきれないアンチファッション精神と機能性とを結び付けています。取り入れやすく、こだわりが強いアイテムである一方で、カルチャーと深くつながっているアイテムでもあります。かつてはアウトローの象徴としてそしられてきたシェルスーツが、今では確固たる地位を確立しています。

'Shell Suit City!' Patrick and his friends having a sneaky cigarette behind their secondary school, Coventry, 1989 by Patrick Cosgrove