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サブカルチャー

ロンドンのクリエイティブ3人にインタビュー

2023年4月
Photos by Elif Gönen

ロンドン在住の3人のクリエイティブの自宅を訪ね、レコードコレクションを拝見。それぞれの生き方に影響を与えたレコードを紹介してもらいました。

アンディ・ベル
イギリスの音楽シーンにおいて数十年にわたりキープレイヤーであり続けているアンディ・ベル。ベーシストとしてギャラガー兄弟と組んでいただけでなく、シューゲイザーの先駆者的バンドであるライドのメンバーでもあります。緑豊かなクラウチエンドにある自宅を訪問し、膨大なレコードコレクションと自身のキャリアを決定付けた曲について聞きました。

どのようなレコードを聴いて育ちましたか?
ザ・ビートルズはもちろん、サイモン&ガーファンクルや、両親が持ってたいろんなアルバムをたくさん聴いて育ちました。その後は自分でレコードを買うようになりました。初めて買ったシングルは、クイーンの「Save Me」じゃないかな。今はもうそんなに好きじゃないけど、持ってたらちょっとカッコいいから。ザ・ジャムの「Start!」は今でもちゃんと聴いてます。ツートーンにはかなりハマってました。初めて夢中になった音楽のムーブメントでしたね。ツートーンの影響はすごくて、誰もがハリントンジャケットを着て、黒のタッセルスリッポンに白いソックスを履いてました。それから、マルコム・マクラーレンの「Buffalo Gals」。全部シングル盤です。オックスフォードのヘディントンにあったJohn Menziesで買いました。

今はどこでレコードを購入していますか?
最近は、クラウチエンドから5分くらいの所にある、Flashbackという店で買ってます。支店もいくつかあって、ロンドン周辺にも2、3店あるんじゃないかな。

最後に買ったのはどのレコードですか?
『Fell from the Sun』というコンピレーションアルバムです。ジャケットがまたいいんですよ。そのジャケットが気に入ってます。僕が20歳だった1990年から91年頃の曲を集めたコンピレーションアルバムです。セイント・エティエンヌのボブ・スタンレーとピート・ウィッグスがACEというレーベルのために共同で選曲したもので、アシッドハウス時代のスローなダンスミュージックが中心になってます。プライマル・スクリームの「Loaded」やザ・グリッドの「Floatation」なんかは、僕がThe Heavenly Socialに行ってた頃にすごくはやってました。

持っている中で一番のレア盤はどれですか?
ザ・ビートルズのモノクロジャケットの『Revolver』です。当時は12ポンドの値札が付いてましたが、1990年ぐらいの頃のことで、買った時のことは覚えてます。ライドでツアーをしてた時で、初めての国内ツアーでした。ある会場でレコードフェアをやってて、このアルバムを見つけて、自分へのご褒美にしようと思ったんです。12ポンドって当時でも結構高かったですけど、今はもっと価値が上がってると思います。とにかく、一番のお気に入りアルバムでもあります。

誰もが踊れる1枚を選ぶとしたらどのレコードですか?
ア・ガイ・コールド・ジェラルドの「Voodoo Ray」をかけるかな。89年頃にオックスフォードで買ったシングルです。十代の頃はこのレコードが大好きでした。今聴いても素晴らしい。気分を上げてくれる定番のレコードです。僕の世代にとっては特にね。

日曜の朝によく聴くのはどのレコードですか?
我が家では日曜の朝が何より大切なので、キッチンにレコードを山積みにしているんです。では行きましょう。まず、マイケル・キワヌカ。それから、ファラオ・サンダース。フローティング・ポインツは、とにかくいい。ジャズだと思いますけど、アンビエントジャズっぽさもあって。あと、レナード・コーエンのベスト。同じタイプでティム・ハーディンも。この2枚は、似た感じのシンガーソングライターのレコードですね。『ティファニーで朝食を』は、「ムーン・リバー」とか聴きどころがたっぷりで、とてもロマンティック。我が家の日曜の朝はこんな感じです。

レコードを特別に感じるのはどのようなところですか?
大きめのサイズ感だと思います。自分の手に取ることができるし、ジャケットを手に取って眺めたり付属品を見たりという一連のルーティンにも味わいがあるし。それをいつ買ったのか、その時何をしてたのか、どんな生活をしてたのかを思い出させてくれます。物理的なモノとしてのレコードの中に、たくさんの思い出と出来事が詰まってるんです。もちろん、音楽も。レコードの音は、他のどんなフォーマットよりもいい音だと思ってます。特に7インチ盤。あの音が最高です。

エリー・エドナ・ローズデイビス
DJであり、ベジタリアンシェフであり、ポストパンクのギターバンド、ゴート・ガールのギタリスト兼シンガーでもあるエリー。他にも多彩な才能に恵まれているに違いありません。そんなエリーが多忙なスケジュールの合間に、デトフォードにある自宅で、長年にわたってインスパイアされてきたレコードの数々をかけてくれました。

レコードを聴くきっかけをくれたのはどなたですか?
母と父です。家でレコードを聴きながら育ったようなものですから。母と父は別居してたんですが、私は父の家から時々レコードを持ち出してました。父は、「聴いてごらん」って感じでレコードを持ち帰らせてくれたんです。それを見た母が「それ私のよ!」って言ったりして。私が持ってたMCソラーのレコードのうちの1枚を母に取られたこともありました。「あっ、それ私の。あなたのお父さんが20年前に持ってったやつ」って。

どのようなレコードを聴いて育ちましたか?
さっき話したとおり、父がレコードをたくさんくれて、私が小さい頃からいつも熱心に薦めてくれたことは本当に幸運でした。ターンテーブルのそばで、針を下ろす時が来るのを待ってたのを覚えてます 。私がかなり幼い頃からそうさせてくれたことは、すごくありがたいですね。レコードマニアのお父さんだったら、針をいじるな、レコードに傷つけるな、って感じだったかもしれませんから。父はただ私にかけさせてくれました。これは父がくれたレコードで、私のコレクションの中で一番たくさん聴いたのは、たぶんこれです。サイケデリック、ソウル、ジャズのコンピレーションで、タイトルは『A Folk-Funk Psychedelic Experience』。後々ヒップホップのレコードでサンプリングされた曲がたくさん入ってて、それで聴くようになりました。ア・トライブ・コールド・クエストの『Midnight Marauders』はとにかく名盤。車の中で聴いて育ちました。

最後に買ったのはどのレコードですか?
ポール・マーフィー&マーク・ウールフォード・プロジェクトのレコードです。母の家に行った時にかけてくれたのがきっかけで買いました。母のレコードコレクションはかなり少数精鋭なんですが、キッチンでかけるレコードには「これ買わなきゃ」と思うものがあって、これもその1枚です。タイトルは「Jazz Room (The Spiritual South Mix)」。入ってるのは1曲だけですが、すごくジャジーでダンサブルで、ヒップホップ感もちょっとあって、めちゃくちゃカッコいい。

インスパイアされたのはどのレコードですか?
ブロードキャストの『Tender Buttons』。十代の頃によく聴いてた曲が入ってて、うちのバンドもすごくインスパイアされてるので、つい最近買いました。エレクトロニクスとシンセサイザーのサウンドや、素朴で飾らないボーカルの声が、とてもすがすがしいんです。

誰もが踊れる1枚を選ぶとしたらどのレコードですか?
たくさんありますけど、クリスタル・ウォーターズの「Gypsy Woman」かな。「La Da Dee La Da Da」はみんな思わず口ずさんじゃいますよ。うーん、大好き。名曲です。
あと、かなりスローな曲なのでちょっと違和感があるかもしれないけど、サン・ジェルマンの「Sure Thing」も。超アップビートっていうわけじゃないのに、グルーブがすごくいい。私のレコードバッグには欠かせない常連です。

レコードを特別に感じるのはどのようなところですか?
たくさんあります。ジャケットそのものに存在感があって、アートワークとして所有できることとか。ジャケットのグラフィックは、デザインと印刷の工程や、いろんな思考プロセスの賜物ですから。インナースリーブもあれば、SpotifyやApple Musicなんかで得られない読みものもあります。それに、レコードはたくさんの人の手を渡り歩いてきたものですよね。中古なら特に。なので、自分の物になる前に、すでにスピリチュアルな生を経ています。レコードが魅力的なのは、そういう背景があるからだと思うんです。

ハシーブ・イクバル
DJ、パーソナリティ、作家、そしてジャンルを問わないアナログ愛好家であるハシーブ。彼は長年にわたり、世界各地のレコードをかけてきました。ロンドンのプリムローズヒルにある彼の自宅を訪ね、レコードコレクションを徹底調査。レアな掘り出し物と、長年彼が大切にしているレコードを見せてもらいました。

インスパイアされたのはどのレコードですか?
特にインスパイアされたのは、セシル・ロイド・グループ の『I Cover the Waterfront』。忘れ去られて見落とされているレコードです。リリースは1962年。すごく興味深いのは、コクソン・ドッドがプロデュースしていること。彼はスタジオ・ワンの創設者で、ダブのプロデューサーとして多くの作品を残した人物です。これがスタジオ・ワンを創設する前の作品で、ジャズのレコードっていうところがとても面白い。ジャズとダブのつながりを知らない人が多いけど、ドン・ドラモンドとローランド・アルフォンソがザ・スカタライツのメンバーだったように、そういうグループのメンバーだったり、いろんなスカバンドでプレイしてたり、ジャズのバックグラウンドがある人は大勢います。そこがルーツなんです。だから、コクソン・ドッドみたいな、数十年にわたってジャマイカ発のたくさんの作品の元祖だった人もジャズからスタートしてたってことに、すごく興味を引かれます。彼にとって、ジャズはすべての基本だったんだなって。なので、このレコードを手に入れて、かなりインスパイアされました。そういうつながりを知れてすごく良かったです。そうそう、レーベルはPort-O-Jamです。これはレア盤ですよ。しかも超美品で、状態も最高。すごくきれいなレコードです。

日曜の朝によく聴くのはどのレコードですか?
ここでヒュー・マンデルのレコードを2、3枚出したらおかしいですよね。4枚目もあるんですけど、どこに行ったか分からなくて。どこかにあるはずなんだけど。ちなみにタイトルは『Arise』(起きる)です。面白いでしょ。これに入っている「Arise & Shine」が究極の朝の曲です。すごく気分が上がる曲の一つで、一日の始まりに元気出してこうっていう気になります。ヒュー・マンデルはかなり特別な人で、14歳で曲作りを始めて、残念ながら21歳で銃撃を受けて亡くなってしまったんですけど、その間に5枚のスタジオアルバムが制作されました。これは最後のレコードで、1983年の録音です。そのことを知らない人が多いのは、彼が亡くなってから5年後にようやく発売されたからです。とても興味深いのは、デニス・ボーヴェルがプロデュースしていることです。彼はマトゥンビのメンバーで、映画『バビロン』のサウンドトラックのプロデュースを手掛けてました。あっちにあります。UKダブを語る上で、すごく重要な人物です。デニス・ボーヴェルがヒュー・マンデルをプロデュースしてたことが分かって、ジャマイカのルーツレゲエのアーティストとイギリスのラヴァーズロックシーンのつながりを知りました。これってめちゃくちゃすごいことだと思います。

誰もが踊れる1枚を選ぶとしたらどのレコードですか?
イーサン・アル・ムンザーの『Belly Dance Disco』の「Jamileh」。レバノン発のいい曲です。とにかくすごい。かけたら必ずみんなの気を引くイントロってありますよね。この曲のイントロがまさにそれです。誰もが動きを止めて、戸惑った目でこっちを見てくるけど、そこから必ず盛り上がるっていう。パーカッションが効いてて、中東のエッセンスがすごく魅力的に表現された、めちゃくちゃテンションが上がる曲です。この曲はちょっとした秘密兵器なので、そんなにしょっちゅうはかけません。この曲にふさわしい時や、かけるに値するオーディエンスの時だけです。

レコードを特別に感じるのはどのようなところですか?
音楽について言うなら、レコードは僕のすべて。レコードのおかげで、音楽の解釈や音楽へのアプローチの仕方がすっかり変わりました。特に、DJやパーティをする時にはレコードだけかけてます。僕にとっては、CDJでのプレイとはまるで違う。CDJには、ディスプレイがあって、調整されたアルゴリズムがあって、BPMが分かるようになってますけど、レコードには すごく人間っぽさがあるんです。物理的な感覚も強い。レコードに触れたり、ジャケットを開けたり、アートワークを眺めたり、ライナーノーツを読んだりするのが大好きです。モノとしての存在感も音楽の温もりに反映されてます。レコードをプレイしている人を見ていると、職人技的なところがあるんですよね。それが深いレベルで味わいやつながりを生み出してるのかなと思います。それに、レコードは芸術品でもありますよね。だから僕にとってレコードは、音楽を超えたものです。思い出の品でもあり、深い物語が込められたある種のタイムカプセルでもあり。そんなところが好きです。スクラッチが好きな理由もそこにあります。レコードは慈しむべきもので、僕にとっては、モノとして鑑賞したり音楽と向き合ったりできるもの。デジタルでただ聴いてた頃には、そんなふうではありませんでした。