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サブカルチャー

Night Rites



2023年7月
Words by Jamie Brett
Photos courtesy of the Museum of Youth Culture
Header image:Giles Moberly

初めての本格的なクラブイベント、週末のフェス、仲間と過ごす休暇。多くの人にとって夏の思い出といえば、開放感と、その後の日々がもうすぐ始まるという気持ちでしょう。ここでは、90年代後期にタイムスリップして、イギリスの若者たちの夜の思い出を巡ります。

1999年といえば、インターネットがドットマトリクスの文字情報サイトのようなものにすぎなかった時代。その夏、チャートを独占していたのは、リッキー・マーティン、ベンガボーイズ、S Club 7などで、スクールディスコの定番曲になりそうでした。中等学校の卒業を控えた僕らは、ポストレイブのユーロダンスポップやGatecrasher的なダンスミュージックをかけながら、大学が始まるまでの夏のアルバイトを探していました。

Image credit: Rosie Bond
Image credit: Jay Brooks

爽やかな夜が長くなってきた頃、初仕事にありつきました。地元の海辺の町にあるクラブでのビラ配りです。クラブのエントランスでビラをさばいているうちに気付いたのは、パーティ客のぼんやりした目を引くには、ビラのデザインや意図が大切だということでした。当時のビラは、初期のCGIによる目がちかちかするデザインや、食品ラベルの無許可のパロディや、手作りのメモをコピーしたものさえありました。 そのうち、行列の中で聞いたことのないサウンドが聞こえ始めて、外壁は期待でむんむんしていました。友人たちとビーチや買い物で過ごしていたうだるような暑さの日中とは違い、夜の時間にはそれまで知らなかった熱気がありました。僕たちが初めて客としてクラブイベントに参戦した時に感じたのは、クロップド丈のトップスとカーゴパンツを吹き抜け、鬱屈した強烈なエネルギーを生み出す、身を切るような澄んだ潮風でした。

Image credit: Gavin Watson

その小さな町のクラブでは、天井から汗が滴る中、DJが小気味よくレコードをミックスし、軍隊のような正確さのブレイクビーツにシンコペーションを効かせてフロアを盛り上げていました。そこで僕たちは、初めて聴くサウンド、過激な考え方、レイバーたちのコミュニティを知りました。アルバイトで行くのとはまったく違う、それまで知らなかった夜の世界を体験すると、クラブのサウンドシステムがビラ配りの寒い夜を凌駕し、深くうねるベースで暖かく迎えてくれました。

Image credit: Jason Manning

ダンスミュージックに夢中になり、気が付けば新しくできたレイブ仲間とストーンヘンジに向かう長距離バスに乗っていました。太古から続く集団的な喜びの聖地を訪ねるためです。1999年当時はまだストーンヘンジに誰でも立ち入ることができたので、ヒッピーやレイバー、ドルイド教徒の群れに混じって、聖なる地で夏至を祝いました。スキンヘッズとシンセサイザーのドラムが鳴り響く中、そびえ立つ石柱に日が沈む光景は荘厳でした。長年風雪に耐えてきた景色を目にしながら、僕らは夜まで踊り続け、野外で繰り広げられる真夜中の祭典の匂いをかぎました。

Image credit: Philip Ritchie

6月が終わりに近づく中、さらに西のグラストンベリーへと僕らの旅は続きました。ストーンヘンジで感じた癒やしとは対照的に、広大な会場で、それまで体験したことがないほどの大群衆と一緒に熱狂しました。至る所に音楽があり、R.E.M.や、ファットボーイ・スリム、スカンク・アナンシーに合わせて踊っていると、初めてのクラブイベントで味わった高揚感を再び体験できました。数日が経ち、僕らは宿にしていたぼろいテントを去り、帰路につきました。ロックで最後のひと騒ぎをするのに間に合わせるためです。

Image credit: Giles Moberly

初めての休暇は、大人の世界というプールにつま先を入れるようなものです。傍若無人な自由があるものの、自分自身と仲間たちの面倒を見るという責任が伴います。しかも、仲間たちの常識はそれぞれ異なります。僕らは格安航空券でヨーロッパ大陸をまたぎ、地中海のにぎやかな島、キプロスへと向かいました。アヤナパでは、ギリシャっぽいキプロスの通りのあちこちでUKガラージが響く中、イギリス人が海外に行った時にありがちな大盛り上がりのカオス状態になってしまいました。島のどこに行ってもガラージが聞こえ、レストランやテイクアウト店からはブレイクビーツが大音響で流れていました。ソー・ソリッド・クルー、MJコール、ミス・ダイナマイトが出るのにつられて地元のクラブにも行きました。考えようによっては、アヤナパとイギリスの地元の海辺は同じような雰囲気です。休暇が終わりに近づき、盛り上がりもピークを過ぎると、地元とアヤナパへのノスタルジアで思わず切ない気持ちになりました。どちらも、迫り来る大学生活や、大人になること、新しい可能性からは遠く離れたものだったからです。

Image credit: Naki
Image credit: Des Willie