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サブカルチャーライブ

オール・アワ・トゥモローズ プレゼンツ:PVA

Words by Sean Griffiths
Photos by @shotbymelissa_ and @jessicaelizaross

UKでアンダーグラウンドなクラブハウスの存在が危ぶまれた困難な時期をへて、ロンドンの100 Clubに戻ってきたオール・アワ・トゥモローズ 2021には、無垢な高揚感と安堵感が満ちていた。会場の壁には音楽の歴史がにじんでいて、いつも何か特別なものを目の当たりにするかもしれないという気にさせられる。「あの時、そこにいたんだ」と何年経っても話す類の経験だ。

耳を打ちのめすようなベルファスト出身のエノラ・ゲイを迎えたオープニングナイトと、ナヤナ・アイズとRADAのオルタナティブR&Bにフォーカスしたセカンドナイト。それらに続いた3日目のオール・アワ・トゥモローズ最終日は、どちらかというとエレクトロニックな雰囲気の中進行した。

最初に登場したのは、ロンドンで結成されたストラウド在住のバンドThe Umlauts。この4人組、18本脚の野獣のような躍動感あふれるパフォーマンスでライブはスタートした。The KnifeからThe Fallまで、さまざまな人たちから強く影響されたという同バンドには、色々な材料を一緒くたにした鍋のような魅力がある。それは、前回のオール・アワ・トゥモローズでプレイしたブラック・カントリー・ニュー・ロードにも通じる。ただし、料理人が多すぎて出汁がだめになるなんて心配は全くのご無用。張り詰め、鼓動するような、ぎりぎりのインディエレクトロサウンドが、観客を釘付けにして、ゆっくりと何層にも包み込む。二人のリードヴォーカル、マリアとアナベルは、ドイツ語の聖歌のような歌声ですべてを融合していった。

Umlauts

POiSON ANNAとして知られる、クロエ・アナは、ディーン・ブラントやエイサップ・ロッキーともすでにコラボレーションしたことのあるエクスペリメンタル・ヒップホップのヴォーカリストだ。彼女がステージに上がる頃には、会場がほぼ満員だったのも納得だ。ブロークンビーツとアンビエントのサウンドスケープにのった、ささやくような落ち着いた彼女の歌声は、トリッキーのミューズ、マルティナ・トップリー・バードを彷彿とさせるものだった。一方、後半のパートナーを迎えてのダンスは、間違いなくFKAツイッグスと比較されるだろう。ささやき声ひとつで会場中の空気をかっさらう静かなカリスマ性を、彼女は持っている。近い将来、その名前を頻繁に耳にすることになるのは間違いない。その魅惑的なライブを通じて、今年の初めにリリースしたばかりの素晴らしいデビューミックステープ『EXCELSiA』に、より多くの人が注目することを願うばかりだ。

POiSON ANNA
POiSON ANNA

ロンドンのノイズポップ・トリオPaddywakは、もっとダイレクトな(しかも、それに劣らずパワフルな)アプローチで、観客の心を鷲掴みにする。ベースギターのかき鳴らすゆがんだコード、シンセサイザー、キーボード、そして二人のヴォーカルの唸り絶叫する歌声によって、ノイズの壁が造り出される。内臓に響く、スリリングなライドだ。ブラック・ミディの前座を務めたこともあるPaddywak。有名なチョコレートバーの広告を引用した歌詞(「you're not you when you're hungry」)や、ジェファーソン・エアプレインの名曲『White Rabbit』を掘り下げて再構築した曲は、ライオット・ガールのアイコン的存在、ビキニ・キルの前座としてグライムスがプレイした時のサウンドに通じるものがある。

Paddy Wak

Mount Palomarとして知られるベルファストのニール・カーは、Paddywakのようなルックスから訴えかけるカリスマ性ではなく、マッチョなハードウェアベースのテクノで観客に強い印象を与える。パンクのエッジがかかった彼のエレクトロニカは、既にGiant Swanと比較されていて、たった1回のライブで、テクノのメッカであるベルリンのBerghainでのプレイの機会をものにした。エレクトロニック系のバンドが多い中、Palomarはアウトサイダーだった。にもかかわらず、30分のセットで会場のエネルギーを数段レベルアップさせ、この夜の最後のアクトに向けて会場を熱狂の渦へと導いた。

Mount Palomar

ロンドンの3人組PVAは、2020年に発表したEP『Toner』で頭角を現した。それ以来、彼らのライブの復活への期待感は明らかに高まっていた。色々な帽子を持っていて、しかもひとつひとつの帽子がやたらと似合っている。ライブから受ける彼らの印象は、一言でいうとそんなバンドだ。楽曲の多くは、トーキング・ヘッズやニュー・オーダーなどから明らかに影響を受けた、本格的なニューウェーブやポストパンクだ。それが時折、フランス人プロデューサー、ゲサフェルスタインが得意とする、タフで頑ななエレクトロニカに移行する。そしてライブがフィナーレに差しかかり、キーボード奏者のジョシュ・バクスターが、エラ・ハリスからリードヴォーカルを引き継いで、ステージの最前列でヘッドバンギングをする頃には、さながら2000年代初期のメタルバンドのようだった。一貫性がないようでいながら、ともかく全てが上手く繋がり、PVAらしさを醸し出す。

PVA
PVA

ライブミュージック不在の長い時を経て、イギリス全土に存在するこのようなスペースがどれほど大切かということを思い知らされた夜だった。地下室で繰り広げられる、騒がしい汗まみれの夜は、これからもずっと続くのだ。