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サブカルチャー

Dubstep

2023年11月

Photos by Georgina Cook,courtesy of Museum of Youth Culture Words and playlist by Ellie Rousseau

Night Talesでは引き続き、コミュニティを中核に据えたシーンに注目していきます。今回取り上げるのはダブステップ。2000年代初期にサウスロンドンで生まれたUKサウンドです。

サウスロンドンのクロイドン出身のプロデューサー勢が追求したのは、UKガラージのサブジャンルである2ステップのダークなサウンドで、そこにはレゲエダブの影響が色濃く反映されていました。2001年には、さらにダークでシンプルにそぎ落とされたサウンドが登場します。その価値を理解し大切にしていたのが、クラブイベントのFWD>>やレコードレーベルのTempaをはじめとするコミュニティでした。ダブステップのコアにある家族的なコミュニティに深く根付いた価値観は、ローレルリースに向けられる認識や支持とも似ています。それは見せかけのものではなく、心から抱く思いです。

初期のダブステップの制作は、他のサブカルチャーと同様に、DIY精神にあふれるものでした。スクリームは、両親が仕事に出かけた後にこっそりと自宅に戻っては、何時間もPlayStationで曲作りをしていました。その後、パターンベースのシーケンサーであるFruityLoopsに移行すると、うねるようなベースラインに重厚なドラムをかぶせる際の入力ミスがほとんどなくなりました。そうしてできた楽曲は、初期のグライムやエスキービートに似通っていました。いずれもロンドンで生まれ、同時期に同じようなソフトウェアを使って制作されていたためです。あらゆるサブカルチャーで見られるように、プロデューサーたちがダブステップという進化系サウンドを確立していく中で、ファンのネットワークが形成されていきました。そのネットワークを後押ししたのが、ビッグ・アップル・レコードでした。このレコードショップで働いていた ハッチャとアートワークは、ダブステップの祖というべき存在です。この2人のプロデューサーが最初にシーンのあちこちでつながりを作り、ダブステップが広がっていきました。仲間内でのFWD>>のセッションでは、たばこの煙が立ち込める薄暗い空間で、ハッチャが秘蔵の140bpmのダブプレートやホワイトレーベルをかけていました。ハッチャはよく、ビッグ・アップル・レコードに通っていたプロデューサーたちに新曲のプレイを依頼していました。そのプロデューサーたちは今でもシーンをリードする存在となっています。少人数のメンバーの中には、Kode9、Youngsta、Plasticianといった面々もいましたが、楽屋で我が物顔をするようなことはなく、ブースを盛り上げ、ひたすら曲にのめりこんでいました。彼らがクラブにリムジンで乗り付ける姿もよく見られましたが、それは単に別々のタクシーに乗って来るよりも安くつくという理由だったことが後々分かりました。客たちも自分本位に振る舞うことはせず、ジャングルやガラージのコミュニティのように着飾ってシャンパンを飲むこともありませんでした。パーカーやレコードレーベルのTシャツを着てドレスコードを否定するオーディエンスたちが集う場にあったのは、薄暗い空間、快楽主義的な精神、そして音楽だけでした。

DMZ(Digital Mystikz)のマーラとコーキは、ガラージ時代からの知り合いで、ビッグ・アップル・レコードに来ては他の人たちと交流し、アイデアを出し合っていました。ビッグ・アップル・レ コードから初リリースを果たしたDMZは、ダブステップにレゲエの大きな影響をもたらします。マーラが自身の日々の苦しみを映し出したエモーショナルなダブを深夜に制作する一方で、コーキは耳をつんざくベースラインをかき鳴らしていました。このプレイリストの全体を通して、ダブステップのオープンなコレクティブの精神が感じられます。ここで取り上げたプロデューサーたちの一部は、コンスタントにコラボレーションによる楽曲制作をしたり、クラブイベントを共同開催したりして、現在も活動を続けています。DMZは2004年にレコードレーベルを立ち上げ、その翌年には、ローファーや、大御所のSGT Pokes(彼の声は多くの人をたばこの煙が立ち込めるダンスフロアへと誘っていました)が参加するイベントを開始しました。

ダブステップのコミュニティは結束が固く、プロデューサー、DJ、イベントをサポートする体制が築かれていたため、インターネットが登場する前からダブステップの曲とバイブスが拡散されていました。その後は、 Dubstep Forumなどのオンラインフォーラムがつながる場を提供するようになります。「Drumz Of The South」というフォトブックで知られるブロガー兼写真家のジョージナ・クックは、2004年から2007年にかけて、イベント、スタジオ、アパート、リンスFMの内側を、自身の古いニコンD600で捉え続けていました。「Drumz Of The South」は、カメラやカメラ付き携帯電話が今ほど普及していなかったその時代に、コミュニティ、ダブプレート、サウンドシステムから生まれたダブステップが、UK音楽の歴史における重要なシーンであり、記録する価値があると理解していたことを物語る一冊です。