レコード・ストア・デイ

SINGAPORE

Record
Store Day

レコード・ストア・デイ

Words by Daniel Peters
Photography Marc Tan of Studio Periphery.

インディペンデント系レコード店が健在なシンガポール。世界で同時開催されるレコード・ストア・デイ(Record Store Day:RSD)を祝し、シンガポールのレコードコレクターのコミュニティにスポットを当てます。

音楽がフランチャイズされる時代は世界中で終焉を迎えており、シンガポールではそれが特に顕著です。この島国ではかつて、センバワン・ミュージック・センターやグラモフォンなどの地元企業やHMVやタワーレコードといったビッグネームが、こぞって全国のショッピングモールに大きなショップを構えていました。が、それらも今ではすべて閉店。消費者がアクセスしやすく、CD全盛期をつくったこの市場に、ぽっかりと大きな穴が開いています。

ただし、シンガポールのリスナーたちは、このことでほとんどダメージを受けていません。インディペンデント系レコード店の盛り上がりにより、伝統的なフィジカルメディア、特にアナログレコードが息を吹き返しているからです。比較的ニッチな市場とはいえ、アナログ盤の売上は世界的な動きと同様に、シンガポールでも飛躍的に伸びています。

シンガポールのインディペンデント系レコード店は、ロキシーレコーズ(Roxy Records)やダダレコーズ(Da Da Records)(前者は現在も営業中)など、先人たちが確立した昔ながらの伝統を継承しつつも、拡大・多様化する消費者のニーズに応えています。

中には、抜け目なくライブや飲食などのサービスを導入している店も。チョイス・カッツ・グッズ・アンド・コーヒー(Choice Cuts Goods + Coffee)ではコーヒー、ホワイト・レーベル・レコーズ(White Label Records)ではカクテルを提供。ザ・バーバーショップ・ミュージック(The Barbershop Music)では最新のヘアカットをしてもらえます。一方、ロックやポップスを中心に扱うレトロクレーツ(Retrocrates)では、店内に「ザ・ジャズ・ロフト(The Jazz Loft)」なるスペースをしつらえ、ジャズピュアリストたちに快適な秘密基地を提供しています。

このようなヴァイナル・カルチャーの広がりとともに、このフォーマットへのそれぞれの店舗による愛情を共有しようという動きが盛り上がっています。毎年恒例のRSDでは、その盛り上がりが最高潮に達します。

「ベテランコレクターも初心者もみんな大歓迎。音楽は少数の特権階級のものではなく、みんなのものだから」

とはいえ、今年13回目となるアメリカ発祥のRSDはワールドワイドなお祭りなだけに、店によっては枚数限定のRSD限定盤の十分な在庫を確保できない場合もあります。

「我々に出来ることは、できるだけ早く注文を出して、あとは在庫が確保できるように祈るだけです」とモスタ・レコーズ(Mosta Records)の店長、アズリ・アリ(Azri Ali)さん。サードマン・レコーズ(Third Man Records)やライト・イン・ザ・アティック(Light in the Attic)といったインディーズレーベルから直接輸入することで、シンガポールのレコード店業界でも頭抜けた存在の同店。今年も「厳選したRSD限定盤」の販売を予定しています。

2013年からRSDの祭典に参加のビニリシャス(Vinylicious)では、スタッフは発売枚数の少なさにも慣れっこに。店長のユージーン・オゥ・ヨン(Eugene Ow Yong)さんは言います。「残念ながら、主なレーベルの卸先を思い通りにすることはできません。シンガポールの地理的条件では、ヨーロッパやアメリカ、日本のように優先してもらえないからです」

オゥ・ヨンさんは毎年、RSDに向けて事前にソーシャルメディアで顧客と連絡を取り、リクエストを募っています。「RSDは重要なイベントです」とオゥ・ヨンさん。「シンガポールの音楽コミュニティがひとつになって、アナログレコードの音楽の祭典を楽しむわけですからね」

こうした状況にあっても、シンガポールのレコード店は斬新なアイデアでこのイベントを盛り上げています。モスタではお決まりの「先着順」の風潮に挑戦するかのように、RSDスペシャル盤を在庫の棚に紛れ込ませ、宝探しを演出。またRSD当日は終日ライブパフォーマンスを開催します。

ジ・アナログ・ヴォールト(The Analog Vault)も評判のレコード店ですが、この店では今年、RSDを祝してヴァイナル・オンリーのスペシャルDJセットを敢行。カスタムターンテーブルのプレゼント企画もあります。RSDは年中行事でもあり、音楽好きにその原点を思い出してもらうイベントでもあるのです。

「お客様から学ぶことはたくさんあります。聴いたことのない音楽を常に探求しています」と語るのは、ジ・アナログ・ヴォールトで「ミュージック・マーチャント(音楽屋)」を務めるニック・ボン(Nick Bong)さん。同店ではジャズ、ファンク、ソウルからエレクトロニック・ダンス・ミュージックまで、多彩なジャンルを取り扱っています。「そんな瞬間やヴァイブスを、音楽を通じてみんなで共有できるって、結構奇跡的なことですよね」

一方、アリさんの願いは、RSDを通じてより多くの人にアナログレコードを聴いてもらうこと。「ベテランコレクターも初心者もみんな大歓迎。音楽は少数の特権階級のものではなく、みんなのものですからね」とアリさん。

イラスト:ティア・オドネル(Tia O’Donnell)

 

レコード・ディグ・イン・シンガポール

シンガポールには、アナログ盤を扱うレコード店が30軒以上も。そんなシンガポール島で、おススメのレコード店の一部をご紹介。

文:ロビン・チュア(Robin Chua)

レッド・ポイント・レコード・ウェアハウス(Red Point Record Warehouse)
在庫約70,000枚は、おそらく国内最大。レアなアジアンミュージックを探しているなら訪ねてみたい一軒。博識なオーナーのオング(Ong)さんが、中国系・マレー系・インド系アーティストのおススメを教えてくれます。現地語のタイトルが分からなくても大丈夫。スマホでジャケットを表示して見せれば、オングさんが見つけ出してくれます。

80, Playfair Road,
Kapo Building Blk B #06-11
Singapore 367998

ホワイト・レーベル・レコーズ(White Label Records)
2018年後半にオープンしたホワイト・レーベルは、アナログレコード店兼バー。ヒップホップ、エレクトロニック・ミュージック、ジャズ、ワールドミュージックと幅広い品揃え。何でもありの音楽系ナイトイベント、独自のオンラインストリーミングプラットフォーム、SGコミュニティラジオ(国内外のDJを紹介)でも有名です。ジャイルス・ピーターソンやアノラークをゲストに迎えたことも。コレクター同士で売買や交換ができるミュージックマーケットも定期的に開催しています。

28, Ann Siang Road, #01-01
Singapore 069708

ヒアー・レコーズ(Hear Records)
ヴァイナル・ファクトリー(Vinyl Factory)誌の連載「世界のベストレコード店」第41回で取り上げられたヒアー・レコーズ。ロック、メタル、インディーズ、ポップスなどが幅広く揃っています。毎週の新着に加え、日本から仕入れる中古レコードでも有名。

175B, Bencoolen Street
Burlington Square, #01-18
Singapore 189651

ジ・アデルフィ(The Adelphi)とコールマン・ストリート(Coleman Street)
ターンテーブルやスピーカーなどのオーディオ機器を取り扱う店舗が集まるジ・アデルフィは、オーディオマニアが足繁く通うショッピングセンター。メモリー・レーン(Memory Lane)やビニリシャス(Vinylicious)など(両店とも地下階)、少数ながら一見の価値アリのアナログレコード店も入っています。ジ・アデルフィの後は、ペニンシュラやエクセルシオールなど、歩いて行けるショッピングセンターに寄ってみては。どちらにもアナログレコード店があります。コールマン・ストリート沿いにもレコード店が点在しています。

ジ・アデルフィ(The Adelphi)
1, Coleman Street
Singapore 179803

ペニンシュラ ショッピングセンター(Peninsula Shopping Centre)
3, Coleman Street
Singapore 179804

エクセルシオール ショッピングセンター(Excelsior Shopping Centre)
5, Coleman Street
Singapore 179805

フレッドペリーでは、レコード・ストア・デイのみならず、年間を通してインディペンデント・レコード店を応援しています。

レコード・ストア・デイを記念し、世界のイラストレーターとコラボした限定トートバッグを制作。各地のレコード店にて当日、先着順で配布されました。