あぁ、ボンデージ、ちくしょうめ!

インタビュー

Oh Bondage!
Up Yours!

あぁ、ボンデージ、ちくしょうめ!

Words by Celeste Bell

『Day Glo!: The Poly Styrene Story』― 娘セレステによる、愛情こもったバイオグラフィー。

テキスト:セレステ・ベル

イギリスのパンク・ロック・バンド、エックス・レイ・スペックスの型破りなリードシンガー、ポリー・スタイリン。シンガーソングライターでアーティストでもあった、70年代のポストモダンスタイルを切り拓いた真のパンクスターである。

今回発売された『Day Glo!: The Poly Styrene Story』は、そうした女性先駆者の鮮烈な物語。セレステ・ベルとゾーイ・ハウが愛情を込めてまとめた本書は、ポリー・スタイリン自身によるアート作品や手書きの歌詞、日記の抜粋なども収められた、彼女が遺したラディカルなレガシーを想起させる内容に仕上がっている。

アートワーク:ポリー・スタイリン作
アートワーク:ポリー・スタイリン作
アートワーク:ポリー・スタイリン作

“ポリーは誠実さに溢れていた。アーティストであると同時にビジョンを持つ人だった” – サーストン・ムーア

1979年にBBCアリーナが母のドキュメンタリー「Who Is Poly Styrene?」を制作し、その中で母は「ポリー・スタイリン(ポリスチレン)」という名前を選んだ理由を「軽くて、使い捨ての製品」だからだと語った。本人は明らかにそのどちらでもなかったけど、そのコメントは大量消費社会におけるポップスターの役割を言い得て妙で、彼女らしかった。

母は決して一筋縄ではいかない人だった。母のパンクは遊び心に溢れ、自由奔放な蛍光色バージョン。他のパンクスの黒のレザーをまとったニヒリズムとは全然違った。ロックの世界で活躍する女性がほとんどいなかった時代に、女の子の身で男性のバンドを率いてた。歯には矯正用ブリッジ。セックスシンボルになるくらいなら坊主頭になると断言してた。そしてそれを実行した。1978年、ヴィクトリアパークでの「ロック・アゲインスト・レイシズム(人種差別に反対するロック)」に出て、頭に巻いた鮮やかな緑のターバンをゆっくりと外し、息をのむオーディエンスに新しい姿を披露したときのことよ。

ミュージックシーンに彗星のように現れてからというもの、母は40年以上にわたって世界中の変わり者やはみ出し者をインスパイアし続けた。「Oh Bondage! Up Yours!」の戦士の雄たけびのような声、大胆不敵な個人主義の表現、ジェンダーや人種の枠に括られることを拒絶することでね。「Identity」という曲では、まだ今みたいに政治の重要課題になってなかった問題に正面から向き合った。母が追求したのは、自分自身のアイデンティティ、世間から自分がどう見られているか、自分自身が自分をどう見ているのか、そしてアイデンティティというレッテルが個人の自由や自己表現に及ぼす影響。それは、生涯を通じて母へ最も影響を与えたことだったの。

ポリーとセレステ
エックス・レイ・スペックスのバッジ
 

父がソマリア人、母がイギリス人という母は、黒人と白人、イスラム教とキリスト教、西洋と東洋といった多重の、しかも相反するアイデンティティに苦労しながらもそのことを理解しようと努めてた。また、1960年代のイギリスで混血児として育ち、最悪の人種差別や暴言にも直面した。母はディアスポラ、植民地主義や大英帝国の申し子。こうした他のどこにもない文化の混合を出自とするからこそ、彼女はあれほど個性的な音楽やアート、詩を生み出せたのよ。パンクのアンセム、アイコニックな「Oh Bondage! Up Yours!」は、世界へ捧げる賛歌であるとともに、現実の、あるいは象徴的な支配に対する怒りでもある。あの歌詞を通じて、母は、本当に自由であるということは何か、もう一度考えるようリスナーに訴えているの。

ゾーイ・ハウとの共著『Day Glo!: The Poly Styrene Story』は、母の生涯の多彩かつ複雑な要素をつなぎ合わせた本になったわ。取材したのは母自身の日記や歌詞、母を最もよく知り、愛した人たちへのインタビューから得られた証言。それに、私自身が母にあてた手紙。これは母と娘の対話形式になっていてね。この本はマルチアーティストとしての母を称える本でもあるの。音楽の世界に入る前、母はキングス・ロードのお店で自分の服を売っていて、そのデザインセンスをバンドに取り入れた。アートワークのデザインや自分自身のブランディング、エックス・レイ・スペックスのルックスやスタイルのキュレーションを手がけ、それは衣装や色使い、ヘアスタイルにまで及んだわ。

今はポップスターのイメージは、その大部分が舞台裏のスタイリスト、広告会社、ブランディングのプロによって作り上げられる時代。そんな時代に見ると、母があの若さで発揮したDIY精神と起業家精神は本当に尊いわ。

“それからエックス・レイ・スペックスを聴いて、これまでに出会った中で最高の曲だ!って思った。彼女の作品なしで、『Riot Grrrl』が今あるとは考えられない” – キャスリーン・ハンナ

ポリーとバンドメンバーのIDカード

“(ポリーの音楽は)エネルギーそのものであり、表現そのもの。私が思うに、今の世界のありさまや、私たちの周りで起こることと彼女の音楽は共鳴している。それには何らかの意味があるからだ” – ネナ・チェリー

エックス・レイ・スペックス2枚目のシングル「Identity」(1978年リリース)の歌詞

ポリー・スタイリン:家出(抜粋)

初日は最悪だった。荷造りだけでうんざり。11歳の頃から家を出るその日をずっと心待ちにしてたのに。もともとは16歳になるまで待とうと言ってたけれど、色んなことが嫌になりすぎて、あと3か月も耐えられそうもなくなった。でも、いざその時が来るとなんだか不思議な気分になった。半分ドキドキ、半分ワクワクって感じ。ペットとか友達とか出かけた場所とか、これまで当たり前だと思っていたもの、特に意識しなかったものを見つめて、変な感じがした。でも今行かなければ、絶対に実行しないって分かってた。ポケットには3ポンド。ビクトリア駅に向かい、ヘイスティングス行きの列車に乗った。一度も離れたことのないロンドンを離れた。ヘイスティングスに着いたら、天気は晴れ。ビーチに座ったり、波打ち際を歩いたりしたけど、夕暮れ時にはもう飽きてしまった。遊歩道を歩く人を観察してみた。ほとんどの人は同じように見えたけど、二人の男が目に止まった。ヒッピーっぽい服で、髪が長くて、ビーズに、頭にはバンド。ヒッピーといえば、知っていたのは愛と平和に生きてるってことだけ。でも、この二人は大丈夫なはず。今夜“寝る”ところに行こうと誘ってくれたときは嬉しかった。でもそこに着くと、心配になった。そこは汚い、街の浮浪者やアル中、こそ泥やジャンキーの巣窟だった。床には腐ったような毛布の山に覆われた汚いマットレス。すえた臭いを放つ空の牛乳瓶や煙草の吸殻、ごみが散らかっていた。ひど過ぎ。まったく、私は何も分かっていなかった。本当に幼い、16歳のお嬢ちゃんだった。

「Oh Bondage! Up Yours!」のロゴの下絵

ポリー・スタイリンの日記(抜粋)

ロンドンWC1、コベントガーデン、ニール・ストリートの悪名高いクラブ、ROXY。ジョン・サヴェージ、エックス・レイ・スペックスのマネージャーであるファルコン・スチュアートとともに、「才能」たちをチェックしに行った。目立っていたのは、ビリー・アイドルとジェネレーションX、ザ・バズコックス、スージー・アンド・ザ・バンシーズ、キャプテン・センシブルとザ・ダムド、ジョニー・モープドとクリッシー・ハインド、パティ・パラディンとジュディ・ナイロン、アリ・アップとザ・スリッツ、ノックスとザ・バイブレーターズ、ディー・ジェネレイト、オルタナティブTV、ゲイ・アドバートとジ・アドバーツ、ブルーノ・ウィザード、ザ・リジェクツ。

オーディエンスはツンツンヘアに鋲を打った犬の首輪。女の子は鎖につながれ、破れたフィッシュネットタイツにスクールブレザー、ヴァンプなメイク。最新流行の展示会だ。

スチュアートとサヴェージがアンディとスーザン(ROXYのオーナー)とおしゃべりしている間トイレに行くと、トレイシー(セディショナリーズのセールスアシスタント)が女子トイレの床の隅にしゃがみこんで、カミソリで自分の手首を切り刻んでいた。呆然としてダンスフロアに戻り、サヴェージやスチュアート、スーザンやアンディと合流。ポリー・スタイリンとエックス・レイ・スペックスを来週にブッキングしてくれた。

「Oh Bondage! Up Yours!」のロゴの下絵

ポリー・スタイリンの日記(抜粋)

南仏。パンとコーヒーだけの朝食を食べながらTime誌を読む。上等な紙のページが遺伝の可能性に関する記事で埋め尽くされていた。砂が金色に輝くカンヌのビーチで、サンシャインイエローのタオル地ビキニで太陽神に礼拝を捧げる。遺伝子組換えによる超人種について何となく考えながら。Oui誌のカメラマンが撮影を申し込んできたが、きっぱりと断った。いい気分にはなったが、官能的なプロポーションよりもウィットを売りにしたい。知性ある美女らしく礼儀正しく名刺を受け取り「どうもありがとう」と言っておく。受け取った名刺の裏に「遺伝子工学」とメモ。

エックス・レイ・スペックスのロンドンライブ用ポスター