1980年代後半の忘れられないベルジャン・ニュービート5曲

INTERVIEW

Five memorable
Belgian New Beat
tracks from the
late-1980s

1980年代後半の忘れられないベルジャン・ニュービート5曲

Interview: James Anderson
2020年6月

伝説のDJ、プロデューサー、そして S’Express のフロントマンとしても知られるマーク・ムーアが、今から40年前にアントワープで磨き上げられたダンスミュージックのジャンルから、レトロな名曲を紹介。

アシッドハウスがピークを迎えた80年代後半、そのリズムやビープ音、スケルチの激しく熱狂的な不協和音は、時折ベルギー発のスローで不気味なサウンドを特徴とするベルジャン・ニュービートと比較されたものです。ベルジャン・ニュービートとは、アントワープのナイトクラブ Ancienne Belgique で Fat Ronnie や Marc Grouls をはじめとする地元出身のDJたちによって、また Antler、Kaos Dance、R&S などのインディペンデント・レコードレーベルを通じて形成されたミュージックジャンルです。しかし90年代半ばまでには、ベルジャン・ニュービートはテクノ、ジャングル、ドラムンベースといったアメリカやイギリス発の新しいクラブサウンドに取って代わられました。

ここ数年、若い世代のDJ、ミュージシャン、プロデューサーが、数十年前のダンスミュージックを熱狂的に再評価し、意識して取り入れたりアレンジしたりしています。しかしベルジャン・ニュービートは、驚き、不気味さ、面白さ、戸惑いに満ちたレトロな魅力があるにもかかわらず、最近までカルチャーシーンの “考古学者” たちからはほとんど見過ごされてきました。そんな中、徐々に新世代の音楽オタクやクラブキッズたちがこのジャンルを見直し始めています。

であれば、マーク・ムーアほどその魅力を伝えてくれるのにぴったりな人物はいません。70年代後半に10代でパンクだったムーアは、ロンドンの最先端クラブシーンでエレクトリックなDJスタイルのパイオニアとして活躍。80年代半ばにイギリスでマニアックなUSハウスミュージックをスピンした最初のDJの一人としても知られた、生涯にわたる音楽マニアです。

またムーアは、80年代後半のアシッドハウスシーンの中心人物でもあり、今では神話化された Shoom や Pyramid でのナイトイベント、また首都やその周辺で行われた幻想的ないわゆる違法ウェアハウス・パーティーやレイヴのゲストとしてDJブースに登場していました。これらの独創的なナイトイベントは、その後世界中に影響を及ぼしました。またこの時期ムーアは、グラマラスでやんちゃな雰囲気のバンド S’Express で世界的な成功も収めました。1988年、サンプリングを多用したアシッドディスコのデビューシングル「Theme from S’Express」は、イギリス、ギリシャ、スイス、ベルギーなど広い地域でヒットチャート1位を獲得し、クラブミュージックがメインストリームのポップチャートに進出する門戸を開きました。

Theme from S’Express

数十年に渡る数々のシーンを網羅した膨大なレコードコレクションと、百科事典的な音楽知識を持つムーアは、ベルジャン・ニュービートを初めて知った時のことをすぐさま思い返します。

「ベルジャン・ニュービートはアシッドハウス時代に注目され始めたんだ。アシッドハウスと比べたら随分と “ポンコツ” な感じがしたものさ。でも、ポスト・ゴシックロック、Front242 の後、EMB (つまり80年代初頭のエレクトロニック・ボディ・ミュージック)といった観点で考えれば、なるほどなって思えるんだよ。今ではベルジャン・ニュービートといえば、みんな Nine Inch Nails やインダストリアル・ミュージックを連想するだろうって思うからね。」

ムーアは必ずしもベルジャン・ニュービートが息の長いジャンルだと感じているわけではありません。しかし、どのみちニュービートは長く生き残ろうとはしていなかったのかも?「ベルジャン・ニュービートの多くは、かなり奇妙でおかしなサウンド」だと彼は考えています。「当時はみんな、ニュービートを楽しんで聴きながら笑っていたのか、ニュービートのサウンドがくだらないと笑っているのか、どっちなのかわからなかったんだ。それってかなりマヌケだけど、楽しかったよ。」ムーアは語り続けます。「それに当時は NME のような音楽紙がベルジャン・ニュービートについて大々的に記事を書いてくれて、コンピレーションアルバムも発売されたほどだった。多分、名曲の数がそれほど多くなかったのかもしれないけれど。」

当時、彼のバンド S’Express は、ベルジャン・ニュービートの比類なき魅力を認めていました。1989年のヒットシングル「Hey Music Lover」のB面は、「Have a Nice Day」という曲でした。「あの曲はベルジャン・ニュービートへのオマージュだったのさ!」ムーアは苦笑しながら当時を振り返ります。「Hey Music Lover のバッキングトラックをスローダウンして、歪んだバイオリンの音を加えて、そこにラッパーの Merlin がかなりアグレッシブな感じで “Have nice day!” って言うんだ!」

Hey Music Lover
Have a Nice Day

ムーアは、往年のベルジャン・ニュービートのサウンドは、それにマッチしたナイトシーンの中でなら現代でも再び成功できるだろうと信じています。「Front 242 のような音に Yellow やゴスロックが混ざったようなものを流しているクラブなら、多分今でもベルジャン・ニュービートが通用するだろうって興味を持っているんだ」と彼は言います。「エレクトロニックミュージックに詳しい人なら間違いなく喜ぶだろうね!」

ということで、ここでは、遥か昔に脳裏に焼き付けられた曲としてムーアがピックアップしたベルジャン・ニュービートの5曲を紹介します。最初に紹介する3曲はムーア自身が好きな曲、残りの2曲は彼にとって「特別な」存在ともいえる曲です。

1. Zsa Zsa Laboum「Something Scary」(Kaos Dance Records)

Something Scary

「ベルジャン・ニュービートの中には、かなりベーシックで、ある意味素朴なものもあるんだよ。でも僕が特に好きなのはこの曲さ。ちょっとファンキーで官能的で、セクシーな感じに仕上がっているんだ。デリック・メイ (デトロイト・テクノのパイオニア)がよくプレイしていたのを覚えているよ。80年代のホラー映画「The Entity」からサンプリングされた「I was alone in my room, something grabbed me…(部屋に一人でいたとき何かに掴まれた…)」という声が入ってるんだ。今ではちょっとレアなサウンドのようだね。なにしろ Discogsで40ポンドもするんだから!」

2. A Split-Second「Flesh」(Antler Records)

Flesh

「88年、僕はDJとして当時かなり流動的で様々なスタイルが入り混じったアシッドハウスに没頭していたんだ。DJたちは The Wooden Tops の「Why Why Why」や Mandy Smith の「I Just Can’t Wait」のようなバレアリックの曲を流していたんだけど、何故かっていうと元々イビサで DJ Alfredo がプレイしていたのを聞いていたからなんだ。そしてベルジャン・ニュービートも流れていたんだ。元々はもっとテンポが速かった曲もあったと思うけれど、スローダウンさせることで、その国のクラブでかなり特別なサウンドになったんだったと思う。A Split Second の 「Flesh」 は、間違いなく Shoom で大人気だった!オープニングのリフが流れたら、誰もがダンスフロアに駆けつけるって感じだったんだ!」

3. Snowy Red「Euroshima (Wardance)」(Antler Records)

Euroshima (Wardance)

「これは、かなり初期の Human League や Tuxedomoon によって作曲されてもおかしくないだろうって思われる曲のひとつ。愛すべきコールド・ウェイヴのムードを感じさせる曲なんだ。もし、この曲や既に紹介した他の2曲が80年代後半ではなく、80年代前半にリリースされていたら、エレクトロニックの名曲として評価されていたと思うよ。このジャンルを語るに相応しい人たちの間では、この曲こそが名作だと言われているんだ!」

4. Taste of Sugar「Hmm Hmm」(Antler Records)

Hmm Hmm

「1988年以前は、エレクトロニックの新譜レコードが出てきても、みんな単に “イカす!” って思うだけで、”これはこのジャンル、これはあのジャンル…” なんてことは言わなかった。 この曲は、ベルジャン・ニュービートというジャンルを僕が知ることになった最初の曲のひとつなんだけれど、実際にベルジャン・ニュービートを聴いたのはこれが初めてじゃなくて、Sprit Second の「Fresh」だった。Taste of Sugar はのみこみが早くて器用なバンドだったよ。彼らは S’Express を聴いていたんだと思う。というのは、僕たちと同じサウンドやサンプリングを使っていたんだからさ。Karen Finley (アメリカ人パフォーマンスアーティスト)のサンプリングのようにね!そして、彼らはこの曲でちょっとした商業的成功を収めたんだ。」

5. Lords of Acid「I Sit on Acid」(Kaos Dance Records)

I Sit on Acid

「突然のことなんだけれど、ベルジャン・ニュービートの一部に淫らな要素がどんどん加わるようになったんだ。S’Express でその影響に貢献できたと思うよ!ちょっと下品で粗野な感じのサウンドなんだ。アシッドハウスの中にベルギーが飛び込んで、まったくチュートン族のストンプとでも言うべきだね。」

markmoore.com
www.instagram.com/markmoore01