エイミー・ワインハウスが与えるインスピレーション

COLLABORATION

10 Years On, How Amy Winehouse
is Still Inspiring Women in Music

エイミー・ワインハウスが与えるインスピレーション

Words by Madeline Reid, Digital Editor of Bricks Magazine
All photographs self-portraits

エイミー・ワインハウスとの10周年目のコレクションを発表するにあたり、BRICKSマガジンは4人の新星女性ミュージシャンに、エイミー・ワインハウスが残した軌跡、スタイルにおけるインスピレーション、傷つきやすさや繊細さをテーマにした曲作りなどについて語ってもらいました。

この10年間で劇的な変化を遂げた音楽業界。ストリーミングサービスが登場したことで、アーティストやファンの音楽への関わり方が変わりました。ソーシャルメディアの普及で、新世代のインディーズ・アーティストが活動できるプラットフォームが増え、メインストリームではないミュージシャンもリスナーとつながるチャンスが得られるようになりました。そして、#MeToo運動に火が付いたことで、優位性を利用した業界の権力者による虐待の疑惑が広く暴露され、音楽における性差別、ハラスメント、女性に対するモノ扱いの態度といった問題がようやくカルチャー関連の対話や用語辞典でも取り上げられるようになりました。

それなのに、この文章を書いている今、エイミー・ワインハウスを代表するアルバム『Back to Black』がスピーカーから流れてくると、あのころからまるで時間が経っていないかのように感じてしまうのは私だけでしょうか。ほんの数小節メロディーが流れただけで、自分の意識は突然デスクから遠く離れて、青春時代に金曜日の夜をよく過ごした地元のパブへと飛んで行ってしまいました。それは2000年代のこと。古くからの友人たちとガタガタの木製テーブルの周りに身を寄せ合い、いつものブースになだれ込み、ちょっと背伸びをして1パイントのドラフトビールを飲んでいたあの頃。「You Know I’m No Good」や「Tears Dry On Their Own」の歌詞を間違えることなくパーフェクトに歌い、困惑顔のバーテンダーに「このアルバムを全曲流して」 と頼み込んだあの頃のことです。

エイミー・ワインハウスの音楽の時代を超えたパワーは永遠に不滅です。ジャズとヒップホップから影響を受けた2003年発表のファーストアルバム『Frank』の成功に続き、『Back to Black』で見せた反骨的なロックンロール・スピリットは、その後のポップ・ミュージックを再定義するに至ったほど、圧倒的なパワーがありました。往年のシンガーを彷彿とさせる彼女のハスキーボイスには紛れもない力強さがあり、ダウンタウンのバーでウイスキーをちびちび飲む、酔っ払っいが醸す後悔や自責の念といったムードも漂います。ロックスターならではの風格とパンチの効いた歌声はもちろんですが、エイミー・ワインハウスの曲が時代を超越していつまでも色褪せない理由は、彼女自身の不安定さ、ストーリー性に溢れたソングライティングにあります。彼女の希望、絶望、愛、苦悩、悲しみを綴ったストーリーは、パーソナルな内容でありながらも普遍的なものなのです。

エイミー・ワインハウスが過去10年間における女性ミュージシャンの基礎を築いたことは疑う余地もありません。その影響力は、ラナ・デル・レイのヒットシングル「Video Games」の揺るぎない真正性、アデルの心を揺さぶる衝撃的なアルバム『21』が醸す純粋で繊細なムード、さらにチャートトップを賑わすアーティスト、ビリー・アイリッシュ、デュア・リパ、リナ・サワヤマなど「ダーク・ポップ」と呼ばれる新しい音楽ジャンルのアーティストの台頭といったように、幅広い範囲に及んでいます。

エイミー・ワインハウスがブリティッシュ・カルチャーに残したインパクトは音楽だけに留まりません。彼女のシグネチャー・ルックは瞬く間にアイコン的な地位を確立し、今でもカムデンに住む人々はエイミー・ワインハウスのスタイルに影響を受けています。高く盛った蜂の巣のようなビーハイヴヘア、ドラマティックなアイライン、オールドスクールなタトゥーといったルックスは、彼女のちょっとワルぶったアウトローな態度にぴったりマッチしていました。

DELILAH HOLLIDAY

24歳のノース・ロンドン出身のDelilah Hollidayは、出身地の郵便番号だけでなく、拗ねたトーン、R&Bテイストの曲調、真っ赤なリップなど、カムデンの女王、エイミー・ワインハウスとの共通点がたくさんあります。彼女の傑出したトラック「Babylon」や「Snake Eyes」を聴くとエイミー・ワインハウスと同じムードが浮かびます。エイミー・ワインハウス同様、10代前半からキャリアをスタートさせたDelilah Hollidayは、妹や従妹とガレージパンクトリオ、Skinny Girl Dietのメンバーとしても活動しています。自身の人生の中で多くの女性からインスピレーションを受けてきた彼女は「母と妹は何をするにしても自分らしさを持っていてユニークだから、いつもインスピレーションを与えてくれる存在。そして本当の自分を出して真っすぐに生きるように励ましてくれるの」と話します。

最新のミュージックビデオ『If You Care』では、ベティ・ブープからクレオパトラ、そしてエイミー・ワインハウスまで、彼女にとってのアイコン的な存在とも言える女性からインスピレーションを受けた様々なルックスを披露しています。しかし、キッチュなイメージの裏で、Delilah Hollidayが綴る歌詞には、切実なほどにパーソナルな内容が込められています。「作詞作曲をすることは、自分の人生と今まで生きてきた経験を表現すること。正直に自分をさらけ出すことは最高の歌詞を書くために欠かせないもの。歌の中に自分の記憶やそのときの感情を残すようにしているの」。

NUHA RUBY RA

イースト・ロンドンで活躍する、アバンギャルドなパンク女王、Nuha Ruby Raは、自身のアーティスティックな感性の表現に焦点を当てたエネルギッシュなパフォーマーです。ハックニーに拠点を置く、zineの発行者、風刺家、ファッションデザイナーたちが結成したグループ「ViciousCollective」のメンバーとして世間に知られるようになったNuha Ruby Ra。ドイツの実験的な音楽グループ、アインシュテュルツェンデ・ノイバウテンからスタンリー・キューブリック監督のホラー映画、『シャイニング』や『時計仕掛けのオレンジ』の音楽で知られるアメリカの作曲家ウェンディ・カルロスまで、幅広い分野のアーティストから様々な影響を受けていることにも納得できます。

常に未来のことを考えているNuha Ruby Raは、音楽業界の女性たちを勇気づけるエイミー・ワインハウスの先駆的な功績に感銘を受けているものの、その道のりはまだまだ長いと言います。「女性の場合、自分の作品について性別や人種と関連付けて質問されることが多くて、これって音楽やアートの分野で私たちがいまだに直面している大きな問題だと思う。いつの日か、シスジェンダーの白人男性たちのように、性別なんかと切り離して自分の活動や作品のことを話せるようになるまで、私たちは戦わなければいけないと思っている」。

ANNA ACQUROFF

ブリーチした眉毛、妖精エルヴィンのような顔立ち、肩にかかるホワイトブロンドのマレットヘア̶ Anna Acquroff は自分を象徴するシグネチャールックの重要性を理解しています。やんちゃなスコットランドのガールズバンド、Medicine Cabinetでリードシンガー兼ギタリストとして活躍しながら、エディ・スリマンのモデルも務めるAnna Acquroff。「そのときにインスピレーションを受けたものを真似するのが私のスタイル。エイミー・ワインハウスのようにビキニやミニスカート、太めに入れた濃いアイシャドウやウエディングドレスとか、フェミニン過ぎて軽薄だと思われているものを、女性パワーのアイコンとして主張する着こなしが好き」。

この大胆さは彼女の音楽にもはっきりと反映されていて、わずか19歳にして、目を見張るような人気ライブパフォーマーであり、イノベーターでもあります。「いいアーティストってどんなルックス、サウンド、ふるまい、ファッションをしている人のことなのか、そしてジェンダーや人種、階級といったものに対する考え方が、その概念にどう影響しているのかについて、みんな自分の認識や感じ方を疑ってみる必要があると思う」と主張します。「女性は、世間にはびこるアーティストやジェンダーに関する既成概念のせいで、流行を創り出すテイストメーカーとしてクリエイティブな場で活躍する権利を否定されることが多い。これって女性アーティストが常々経験することで、私たちはこの現状が変わるように戦わなければいけないし、自分自身にも挑戦しなければいけないと思っている」そんな彼女の主張を、エイミー・ワインハウスも賛同してくれるはずです。

LUCIA FAIRFULL

「作詞作曲するときは、いつも心をオープンにして素直な気持ちでいるの。だって自分を何らかの形で表現するには、それしか方法がないような気がするから」と4ピースバンド、Lucia & The Best Boysで活躍するLucia Fairfullは語った。コートニー・ラブとグウェン・ステファニーに影響を受けたグラスゴー出身の彼女は、初めて曲を書いたのが10代の頃で、作詞家としては一流の域に達しています。「これまでの人生で今よりも困難なことを色々経験してきたから、個人的な感情を克服するためのツールとして作詞作曲を利用してきた。この経験が歌詞の内容や言葉の幅を広げることに役立っていると思うし、自分の弱さや繊細な気持ちを歌で自由に表現してもいいと気付くことができて、本当に救われたの」。

Lucia & The Best Boysはスコットランドで非常に高い人気を誇るグループとして知られており、Lucia Fairfullの多彩なボーカルと、爆音のオルタナティブ・ロックからエモーショナルなバラードまで、様々な楽曲を演奏するバンドとして高い評価を得ています。「パフォーマンスを始めてすぐにステージでは大胆になるべきだって分かった。私たちの曲は超攻撃的なものではないけど、ステージに立ったときに、歌詞の意味を伝えたいというのが本音。ミュージシャンとしてパフォーマンスすることが大好き。ステージは自分をさらにパワフルで自信に満ちた気分にさせてくれる」。