音楽助成金の受賞、おめでとう

サブカルチャー

Meet Our
Music Grant
Winner

音楽助成金の受賞、おめでとう

2020年11月

フレッドペリーとニコラス・デイリーによる音楽助成金を受賞したロンドン在住のコズミック・ソウル・シンガー、adenをご紹介。

2020年10月に発表されたフレッドペリー&ニコラス・デイリー音楽助成金は、未契約のミュージシャンが腕を磨き今後の活躍のために必要な支援を得られるよう、1名に贈られるものです。

「音楽は私たち2つのブランドを結びつける力であり、コラボレーションによる各コレクションでも重要な役割を果たしています。だからこそ、音楽業界の存続が脅かされている今、力を合わせ、イギリスの次世代ミュージシャンをサポートするための音楽助成金を提供しようと考えたのです」ニコラス・デイリー

精力的な応募のおかげで、素晴らしい才能が集まりました。皆さんの今後の活躍が楽しみです。次点の方々はAMOS、ケイシー・タフネル、フィーオ、ウィルフレッドです。

今回の受賞者であるシンガーソングライターのエイデンは、伝説のメトロポリス・スタジオで2日間のマスタークラスを受講し、自作の音楽を業界プロの助けを借りてレコーディングします。この体験を前にしたエイデンに、思うところを語ってもらいました。

「私は特にどこという故郷がないミュージシャンなんです。ルーツのエチオピアと、育ったアメリカ中西部の真ん中を取ると、大西洋のど真ん中になってしまいます。でも、それはかまわないーー時空を超え、頭と心と魂で、リスナーと一緒にいろいろな場所に旅ができる音楽を作りたいと思っています。サウンドで、これまで作られたことのない風景や詩的表現を作り上げたい。そうすることで古いもの新しいものを、より深くリスナーと共に感じられるものが作りたいんです」エイデン

フレッドペリー&ニコラス・デイリー音楽助成金受賞、おめでとうございます。審査員を唸らせた感想はいかがですか?
ただただ信じられないのですが、とても光栄だし嬉しいです!

この助成金についてはどのようにして知ったのですか?申し込もうと思った理由は?
審査員の一人だったZakiaの大ファンなので、その流れで知って。申し込んだ理由?さあ…とにかく最善を尽くしてみてもいい状況かなって。

あなたの音楽について教えてください。始まりはどんなふうに?
母は音痴で(冗談じゃないんですよ)、父も私が知るかぎり音程が外れずに歌えたことがないのだけど、なぜか私は子宮から出てきて言葉もちゃんと喋れないうちから歌っていたの。だから私の音楽は奇妙な劣性遺伝子とともに始まったんでしょうね。ありがたいことにそれを家族が応援してくれたし、小学校でもいろいろ音楽のアクティビティがあって助けになった。何度か相当偶然なチャンスに恵まれた末に、音楽について、大好きな趣味というレベルを超えたものとして真剣に考え始めたんです。これが大学に入りたての頃で。まもなく天文物理と数学の学位取得と、音楽学校のジャズ演奏のプログラムとの間で時間をやりくりする状態になった。こうした2つの異なる環境の中で、意識して曲作りとプロデュースを始めたんです。私の中のアーティスティックな声が遂に現れはじめたというところがあり、感じていることをサウンドによってどう表現できるかという好奇心もあったと思います。その好奇心に押されて、参加したい創作プログラムがあり文化的にもとても豊かなロンドンに移ったんです。今はその好奇心に支えられながら、複数の音楽プロジェクトでコラボレーションし、各プロジェクトが進む方向性を探っています。どんな形で、1つ1つが独特でインパクトのある形にまとまっていくのかなって。

音楽助成金が非常に重要だと考えるのはなぜですか?
ミュージシャンというのは、というかアーティスト全般がそうですが、ひどく不安定な生活を送っています。パンデミック前からそうでした。それが今年は更に悪化したんです。アーティスティックな活動は社会文化的にも集合意識的にも深い影響を与えるものであるにもかかわらず、常に低く評価され、搾取されています。これは例えば、アーティスティックな活動の維持を奨励する社会的インフラというかメカニズムが欠けているところからもわかるでしょう。 あるいは、音楽業界の力関係から見ても、社会資本や経済資本を持たない者は利用され、コントロールされ、疎外されますよね。

ともあれ、こうした状況の中で助成金は、作品を作るにも食べていくにも他に手段を持たないミュージシャンを支援し擁護していくうえで決定的な役割を持っていると思います。率直に言って、アートのキャリアなど続くわけがない、そんなものは重要でないと、ひっきりなしに疑いの目を向け(物質的にも足を引っ張る)人々がいる中で、助成金は創造面でも物質面でも必要不可欠な命綱として機能してきたんです。現在のような状況下で人々が結集し、立場の弱いアーティストやヴェニューの支援方法を考案するだけでなく、長期的な社会的・政治的介入のために結集し闘っているのを見ると、とても勇気づけられます。こうした動きによって、あらゆる実績レベルのアーティストやアート・スペースの安全と安定が確保されていくことを願っています。

どのようなタイプの音楽をやっていると表現しますか?
そうねえ、表現主義が斬新なポップによって突然変異して、そこに軽やかなコズミック・ソウルが混ざったらこうなるというか。

音楽作りのプロセスは?どんなところからインスピレーションを得ていますか?
はっきり決まったプロセスはないかもしれない。大体の場合、音楽作りはすごく状況次第というか、特定の瞬間や関心や感覚的体験に対する反応なんです。でも曲を作るときは、なにかしら強烈な感情を中心に据えるようにしています。自分にとって意味あるものを作るときはいつでも、自分を出しきり、露出し、問いただすことが必要。そういった行いは強烈な場合も繊細な場合もあるから、音楽に対しては流動的に、忍耐を持って接していると思います。発展させるには時間や空間が必要だと思ったら、その声に従いますね。

インスピレーションについては… 人間の成長、愛、回復力、つながり、創造的発想が、深いインスピレーションになっています。そして歴史と、あらゆる民族の自由のために立ち上がり闘った人々の物語も。生きるということに関わる問題――毎日なんとか一生懸命生きていこう、存在していこうとする営みは、とても重要で複雑で頭の下がるものです。この宇宙での私たちの存在と環境はあまりに感動的で、残酷で、難解で、悦ばしくて…形容詞は限りなく続くけれど。私にとっては、そこに加わり、その中で動いていくだけで、掘り下げる対象は限りなく出てきます。

あなたのサウンドにインスピレーションを与えたサブカルチャーは?
沢山あるけれど、あえて簡潔に、思いついたものから5つほど言いますね。
エチオピア音楽、とくに宗教的なプロテスタント・ミュージック、50~70年代のエチオピアのジャズとコンテンポラリー・ミュージック(たとえば Gigiや Aster Aweke)。ここまでは常に私の身体の中にある、故郷と歴史のサウンドです。

それと、アメリカのフォーク・ミュージック。私が最初につながりを感じた文化のうちで、歌詞は詩であり得ること、1つの楽器と1つの声だけで感情に訴えかけることを教えてくれたのがこれ。

ロマン派のクラシック音楽と英国国教会の聖歌隊音楽。このあたりのジャンルはハーモニーの扱い方と、はかなさと情熱と切望が実にパワフルに表現されているところが凄いと思う。

ジャズとR&B。うーん、このインスピレーションは大きいわ。社会政治的な勢力としても、ポピュラー・ミュージックに文字通り革命をもたらしたという点でも、そしてインプロヴィゼーション、リズム、ハーモニーを幅広い表現手段として利用できるという点でも。

あとは、実験音楽。言うまでもなくとても幅広いカテゴリーだけれど、そこに共通する精神と創造的アプローチを自分の音楽にも反映させようとしているの。つまり音楽的な構造やジャンル、従来的な作曲方法の境界を越えていくということね。

今回メトロポリス・スタジオに入ってレコーディングしたいと考えている曲について、少し教えてください。
録りたいと思っているのは「Because Emotion is a Kind of Motion 」という曲です。次のプロジェクトに入れたいと思っていて。端的に言えば、ある種の状況を――生き生きしていること、生きているという実感を録音したい。遠いところから戻ってきて、前に目を向けながら同時に振り返っているような。「Because Emotion」を録音したいと思ったのは、特にこの曲がメトロポリス・スタジオのプロ・エンジニアの腕でどんなふうに進化するか興味があるからです。感触、音色、周波数帯域、空間の点ですごくダイナミックで、このダイナミズムこそ曲の本質なのだけれど、それをさらに有意義に形作っていくことが必要だってことはわかってる。しかも、自分の音楽をプロ用のスタジオで録ったり、プロ・エンジニアに立ち会ってもらって自分の曲を一緒に作業する機会は今までなかったの。そういう最初の機会をこのスタジオで体験できるうえに、特に気に入っていて特別な配慮が必要なこの曲を扱えるなんて、とても貴重です。

エイデンのプレイリストはこちら。